竜の足音

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「セキ、マウルの調子はどうだ」 いつもと同じように朝の挨拶とともに仕事にとりかかろうとするセキに、ハシムが問いかけた。 「大丈夫です」 セキは短くそう答えてハシムに背を向ける。 父親がいた頃はハシムやその家族とも仲良くしていた。今でもハシムの方はセキたちのことを気にかけている。けれど、セキはあの日以来、ハシムに笑顔を見せることも頼ることもしていない。 あの日、飛竜に乗って配達に出かけた父が戻らなかった。 次の日もその次の日も。 セキは父と仲の良かったハシムに父を探してくれるよう頼んだ。 「すまないセキ。担当外の配達区域へは行けないんだ。そういう決まりなんだ」 ハシムはそう繰り返すばかりだった。 「じゃあ、父さんの担当区域は誰が」 まるでもう父が戻って来ないかのように、そんな質問をする自分にもセキは腹がたった。けれど父が配達に行ったのは海を超えた先の隣国で、飛竜なしに海を渡るには膨大な船賃が必要だった。セキにはもちろん船に乗る金などない。 「すまない、セキ」 ハシムは残念そうに首を振るだけだった。 それからしばらくして、セキは郵便局で働き始めた。 妹とふたり食べていくためにも仕事は必要だった。 ハシムは何かとセキを気にかけてはいたが、セキはハシムを頼ることはしなかった。
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