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石造りの牢屋は地下にあった。かび臭くひんやりしていた建物から出ると、すでに外は日差しがきつく、少し離れた会場に着く頃には、二人とも汗がにじんでいた。
民衆の集まる広場に舞台が設えられており、調理スペースと貴賓席が用意されていた。その周囲に集まった観客達の後ろに陣取る。
快晴なのに空気が淀んで見えるのは、旗のガーランドや装飾用の布の色がくすんでいるせいかもしれない。民衆達のよどんだ目つきも気になったが、それよりも、奥に位置する公開処刑場に視線が吸い寄せられた。
主役である王子は、巨大な長テーブルの真ん中に鎮座し、料理人がその場で調理したものを順に口にしてはだめ出しをしている。
「うわー、悪趣味。こんな血なまぐさいところでよく食えるな」
「解放されずに牢屋送りになったら、行き着く先はアレなのかもな」
二人、首つり台を見ながらぞっとした。
王子の悪評の内容を具体的に言うと、このようなものである。曰く、近くに海を持ってこいと言い、できなかった大臣をクビにした。曰く、街にきた芸人を招聘し、面白くないと言って身ぐるみ剥いで追い出した。曰く、遠い異国に咲く花を枯れないうちに持ってくるよう要求し、それができるまでその商人がこの国に足を踏み入れることを禁止した……。
王子をこわごわと見やる民衆達の目が、その噂が完全な嘘ではないことを物語っている。
「そう言えば、なんであたしの包丁、取り上げられなかったんだろ。なんか、随分恨まれてそうなやつだし、暗殺を警戒してたりしないのか? この包丁は特別製だから、人の首くらい簡単に切れるのにさ」
「……ああ、そう言えば、お前は寝てたんだっけな」
キリヤが呆れて溜息をつく。慣れない旅の疲れか、牢に入れられたとたんに爆睡した相棒に、胆力の強さというより図太さを感じて恥じ入ったことを思い出す。
レオナだけではなく、全ての料理人が持ち物を携帯したまま放り込まれていた。王子の使いと名乗る兵が現れたので聞いてみると、彼は口の端を上げてこう言った。
「王子のお情けに感謝しろ。餓えて死にそうになったとき、自分の腕を切り落とす物が必要だろうということだ」と。
聞いたままを伝えると、レオナはいきりたった。
「ふざけんな。あたしらはタコか! 自分で自分の腕を切って喰えってか!」
包丁に手を伸ばして壇上につっこんでいきそうになったレオナを、再びキリヤが引き戻した。
「なぜ止める! こんなくだらない茶番に付き合うより、このまま逃げ出した方が利口だろ!」
「忘れたのか。俺たちには、これがついてるんだよ」
キリヤは右腕を掲げて見せた。日やけした手首には、宝石が複雑に組み込まれた鉄製の腕輪がはめられている。
「この変な宝石のせいで、俺たちがどこにいるか判るんだとよ。逃げ出したりしてもすぐに捕まって、それこそ処刑台に送られる」
レオナは舌打ちをした。壇上の王子と他の料理人達のやりとりをにらむように見つめる。
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