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王子が料理人に出したお題は、「空に浮かぶ月を食べさせろ」だ。
禅問答のつもりなのか。ふざけているとしか思えない。
ある者は、形だけ似せた円盤状の甘いケーキを作っていた。他のある者は、月の成分を調べ、そこから想定される味を調合して固くて丸いパンを作った。また、ある者は、王子の乳母から話を聞き出し、よく作っていたというクリームを挟んだクッキーを再現してみせた。
みな、一口で皿を投げつけられて失格になっている。
「どうせ、こんなの暇つぶしだろ。合格者なんて一人も出す気ないんだよ」
弱い十二歳になるというわがまま王子。あのゆがんだ笑みからは、自分のした約束を守るような誠実さは読み取れない。
レオナは腕輪に目を凝らした。留め具の部分を探り当て、強度を確かめる。
「あたしなら……斬れる」
だが、キリヤは首を横に振った。
「それでも、俺らは料理人だ。料理も出さずに逃げるわけにはいかねえだろ」
生真面目にそう言って背中を押す。レオナは「あたしは料理人じゃない……」とつぶやきながらも、仕方なく考えを巡らせた。
月を食べさせろ。
――月なんて、手に入らないものの代名詞だろ。
民衆に負けず劣らずつまらなそうな顔をしている王子と、彼にへつらって笑顔をつくる重臣達をすがめた目で見やる。
「……キリヤ。市場での調達と薬屋への聞き込みがまだだったよな。それ、今、行ってきてもらえるか?」
「は? 今? だって今はこっちが……」
「いいから。食材選びじゃあたしは役にたたないだろ」
レオナは決意を秘めた目でキリヤを見た。
「だから、こっちはあたしにまかせろ」
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