Cry for the moon

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 どの料理人が何を出しても、王子は首を縦に振らなかった。同じ展開がずっと続き、見物人にも王子にも飽きが来た頃、最後の料理がテーブルに載せられた。  あくびをかみ殺していた王子が絶句する。側近たちが異様な雰囲気に気づく前に、レオナは堂々と腕を組んで仁王立ちをした。 「これがあんたの所望してたものだ」  皿の上には、泥で作られたとおぼしき丸い固まりが積み重ねられていた。どこからどう見ても食べ物ではない。  王子の周囲がどよめく。隣の席についていた国王がうなるように言った。 「……泥にしか見えないが」 「そのとおりだ。何か文句でもあるのか?」 「この……っ、ぼくを愚弄するのか!?」  王子の目がつり上がった。立ち上がって側近に何かを命じようと口を開いた瞬間、その顔に泥だんごが炸裂した。  心臓が引き絞られたかのような悲鳴が、王妃や観客達から上がる。顔面蒼白な周囲をよそに、レオナは喜色満面で次の団子を振り上げた。 「ほおら、好きなだけお食べ!」 「――き、きさまあっ!」  王子が上げた甲高い怒声を合図に、会場は大混乱に陥った。  捕まえようと迫ってくる衛兵達に、レオナは調理台の陰に隠しておいたバケツから泥団子を補充して応戦する。顔面を打たれて脱落する彼らを見て、カッとした王子も手元の泥を固めて投げ返す。  つぶれた泥団子で滑って転ぶ王族達、テーブルの上に乗って腕を振り回す王子、とばっちりを受けて泥にまみれる見物客、大笑いしながら所狭しと飛び回るレオナ。  会場は泥団子のぶつけあいで騒然となった。
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