1章ー1 となりになったのは……

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1章ー1 となりになったのは……

「先生! ちょー席替えしたいです!」  うるさいランキング五位(わたし選定)の男子が、最前列で主張している。  まあ最前列が嫌なのはわかる。先生に当てられたりするでしょ。あとなんか先生と近くて落ち着かない。 「田中君の言う通り、そろそろ席替えしようか。もう二か月くらいしてもんな」  そして柔軟な先生。さすが昔体操選手を目指していただけある。先生はいつかの授業で、体操は発想も体も柔軟じゃないとできんぞって言ってた。  クラスはいつの間にかざわざわしていた。  席替えってなるとみんな色々としゃべり始めるんだ。わたしはあんまり気にしないから特に何も言いたいことはないけど。 「ねえ、梨月。さびしいよー」 「あっ、うん、そうだね」  ノリのいい隣の女の子、杏菜ちゃん。わたしとそこまで仲がいいってほどでもないのに、寂しがってくれている。 「次の席もいい席だといいなー」 「そうだね」 「梨月は、どこら辺が好きなの?」 「後ろのすみっこかな」 「おー。じゃあこのままの席がいいんだね」 「うん」  杏菜にうなずくわたし。今の席は後ろのほうの窓際で、本当に落ち着く。なんとかしてまた、今のあたりの席になるといいな。  席替えはいつも通り、視力が悪い人以外は、くじ引きだった。  わたしは運が良すぎた。なんと席の移動はなし。つまりまたこれから二か月くらい、後ろのすみっこ。最高。 「ねえ、前から二番目だったんだけど!」  一方杏菜ちゃんは残念な感じになってしまった様子。 「わたしこのまま」 「え、いいなー! もうそこにいていいよって神様から許可出てるよそれ」 「そうかな」 「はーい。じゃあみんな新しい席決まったから、移動するぞー!」  先生の声で、机ごと移動する人がたくさん発生。上から見たら結構面白そう。  わたしの隣に来るのは誰かな。そう思って待っていると、わたしの隣に、静かに机を動かしながら、一人の男子がやってきた。 「あ……」  わたしは思わず驚いた。ちょっと変わった男の子だ。  松ヶ丘陽飛(まつがおかようと)。一見普通で、まあかっこいい……ところもあるかなって感じなんだけど、何かしらしゃべると、ちょっと変わってるな、と実感することができる。 「よろしく」 「あ、うんよろしく……」  まあこのくらいの会話だったら普通だけど、多分これから授業とか受けているうちに、普通じゃなくなる気がする。  ちょっと、落ち着かないかもなあ……。  はい。ちょっとじゃありませんでした。全然落ち着きません。まじで。  いま社会の時間なんだけど、陽飛(松ヶ丘よりも短いので親しくはないけど下の名前で呼ぶ)が何をしているのかと言ったら、迷路を作ってるの……!  工作用紙で作る立体迷路。  確かにちょっとクラスで流行ってる雰囲気あったけどもう下火。  ワンテンポ遅いよ。おじいちゃんみたいだよ。超マイペースおじいちゃん。  多分どこかで拾ったBB弾の球を入れて傾けたりしてゴールを目指すやつ。それを作っては試しに遊んで、また作り進めてってしてる。やばいよこの人。 「……できた。あのさ」 「あのさ? あ、わたし?」 「そう。試しに遊んでみて、テストプレイ第一号」 「あ、今?」  全然嬉しくないんだけどテストプレイ第一号。お気に入りのゲームが発売前に遊べるんならいいけど。これお気に入りでも何でもないし。  けど……めっちゃよくできてるなあ。  ちょっと驚いた。  けっこう陽飛って、てきとうな人なの。図工とか見てても、まあパパっとそれなりのものを作ってだらだらしてるイメージ。  だからこんなにまじめに一つのものを作るなんて、びっくりだ。  どこにモチベーションがあったんだろう。 「あの、ちょっとでいいから、遊んでみて」 「う、うん」  そんなに言うなら……まあいいよ社会の授業は。わたしあんまり社会の授業好きじゃないし。  わたしは陽飛から、迷路を受け取った。  スタートの位置にBB弾を置く。そして傾けた。工作用紙でできた城の中に、BB弾が吸い込まれていく。  外からは城の中がどうなってるか見えないので、かんで傾けていくしかない。  あれ、これもしかして、クソゲーってやつ?   お嬢様学校に行ってる優秀なお姉ちゃんが「これクソゲー」ってよく言ってるから、多分クソゲーは下品な言葉じゃない。 「BB弾の音で道を想像するんだよ」  となりで小さく陽飛が言った。え、まじですか。五感を使うタイプの迷路なんだ。  そのうちBB弾をなめさせられたりしないか心配になりながら慎重に傾けていくと、たしかに、壁に当たると音がする。  それを何度かやっていくと今どの辺にいるかわかるし、こっち行けば進む気がするってのもわかる。  しばらく割と夢中になってたら、お城の屋上から球が出てきた。 「お、前半クリアだ」 「やった」  わたしは昼休みのような気分になっていたが社会の時間。しかし、やっぱり、迷路の時間だった。 「後半はこれは……」 「壁無しコース。落ちたらお城の入り口まで転がるようになってるから、そこからやり直しだな」 「きびしすぎない?」 「まあ、おれは時々厳しいから」 「はあ……」  やっぱり変人。謎すぎる。  とか思ってたら落ちた! 壁無しコースはすぐに脱落。あっという間にスタートからやり直しだ。
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