パラパラ

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 ソファから立ち上がり、凝り固まった肩を回したり、腰をグッと伸ばしたりしながら、ようやく私は、本の世界から、現実の自室へと戻ってくる。  本を元の場所に戻し、いつの間にか残り少なくなったマグカップの中身をクイっと飲み干すと、カップを手に持ったまま、空いている方の手を、レースのカーテンの間にそっと差し込む。少しだけ隙間を作ると、暗い窓の向こうの音に聞き耳を立てる。  パラパラ、パラパラ、パラパラ……  相変わらず気弱な音だ。予報では、今日の雨は本降りになるらしいが、もしかして珍しくハズレるのでは。  このままの雨で終われば良いと祈りながら、私は、自室を後にした。  キッチンで、手早くマグカップを洗い上げると、夕飯の準備に取り掛かる。  予報に反しこのままの雨で終わるのであれば問題ないが、やはり予報通りということになれば、きっと夕飯もままならない。早く食べ終わっておかなくては。  パラパラ、パラパラ、パラパラ、パラパラ……  トントン、トントン、トントン、トントン……  雨の音に対抗する様に、私は包丁の音高く食材を切り、夕飯を作る。いつもよりも少しだけ雑にうるさく作業をするのは、わざと。  雨の音が私の耳に入らないようにするためだ。
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