2人が本棚に入れています
本棚に追加
お姉ちゃんが動かなくなった。
声をかけても、体を揺すっても、悪口を言ってみても、お姉ちゃんは動かなかった。
どうして。どうして動かないの。
「お姉ちゃん。おねえちゃん。どうして何も言わないの。どうして動かないの」
私が、お姉ちゃんの悪口を、みんなに言ったから?お姉ちゃんの大好きなシュークリームを食べちゃったら?
……わたしが……あの時、道路にとび出たから?
頭がズキズキと痛む。血の気がサッと引いて、手足の先の方の感覚が薄れていった。
「おねえちゃん。ごめんなさい。ワガママ言ってごめんなさい」
ガラガラと、病室の扉が音を立てて開いて、お母さんが顔をのぞかせた。
お母さんは私の顔を見るなり、嬉しそうに破顔した。
「お母さん。お姉ちゃんが動かないの。どうして」
お母さんは悲しそうに顔を歪めると、「お姉ちゃんはね。頭にちょっと傷がついちゃって。もう、動かないの」って、そう言った。
「体はこんなに温かいのに?息も、ちゃんとしてるのに?」
私はお姉ちゃんの傍に行くと、頭を優しく撫でた。
「痛いの痛いの飛んでいけ」
飛んでいけ。とんでいけ。
痛いの、いたいの、お姉ちゃんに根を張るな。とんでいけ。
とんで、いってよ。
お姉ちゃんは終ぞ、動くことは無かった。
植物人間。お母さんはお姉ちゃんのことをそう呼んだ。
私はそれから、たくさん本を読んだ。色んな人に話を聞いた。たくさんたくさん調べて、しらべて。
ただ、治らない。そういう言葉だけが私の胸に残った。
私は、神様にお願いをした。そうするしか無かった。
毎日毎日。ずっと、ずぅっと。神様にお願いをした。
お姉ちゃんを治してください。お姉ちゃんを治してください。
謝りたかった。ごめんなさいって。今までのこと、全部。
だから、お願いをした。
そしたらね。優しい神様が、私にひとつ、力をくれたの。
私はなんでも出来る神様だから、君のお姉ちゃんを助けてあげる。って。そう言って、優しい神様は力をくれた。
それは、私の命を、お姉ちゃんに分け与えて、お姉ちゃんを動かしてくれる。そんな力。
早速私はお姉ちゃんのところに行って、その力を使った。
私の髪は枯れて、肌は少しかさついた。お姉ちゃんにはたくさんの生き生きとした葉っぱがたくさん生えて、お姉ちゃんの瞳には光が戻った。
「お姉ちゃん。よかった、よかったよぉ」
「どうしたの?急に」
「ごめんなさい。お姉ちゃん。ごめんなさい」
「……泣いてちゃ、なんにも分からないわ。あなたには笑顔でいて欲しい」
私は涙を拭って、久しぶりに、そのキラキラとした、私の大好きな目を見つめた。
「お姉ちゃんを、そんなふうにして、ごめんなさい」
そこで、お姉ちゃんは自分の体に葉が生えていることに気がついた。
「わぁ、すごい。不思議なこともあるものね」
「ごめんなさい」
「別に、気にしないわ。花のある女の子も、いいものでしょう?あー。いや。花はないみたい。ま、葉っぱでも、こんなに綺麗なら、十分よ。というか、あなた。髪の毛や肌が、ボロボロよ?ちゃんと手入れしないと」
「うん。うん」
それから私は、お姉ちゃんとのお話に沢山花を咲かせた。
私は、私とお姉ちゃんの命が、すぐに枯れてしまう。なんて、そんな話はしなかった。
この楽しい時間を、最後まで楽しみたかったから。
お姉ちゃん。お姉ちゃん。私の命が枯れるその時まで、一緒にいようね。
最初のコメントを投稿しよう!