Highlander JK【Japan Knight】

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兼三郎に抱えられさくらは自陣まで運ばれた、腹は裂け内腑も顔を出し出血も酷い薬師も見た途端首を横へ振った。 傷口らしき場所へ布を当てられただけで何の処置もされずさくらは遺骸集積場のほど近くで死が訪れるのを待った、意識はなく兼三郎は甲斐甲斐しくさくらの傍に付き添って朝を迎えていた。 「けっ兼三郎⋯戦は⋯どっどうなった?」 朦朧としていた兼三郎は一瞬覚醒し周りを見渡したが気の所為かと再度目を閉じた、私は気付かぬ兼三郎の膝へ手を掛けると吃驚して後ろへ飛び退いたのだ、私はその様がおかしくて笑いかけたが腹に激痛が走る。 「たった痛ぁ⋯」 私は上半身を起こし兼三郎を見た、兼三郎は何か言おうとするも言葉にならず鯉の様に口をパクパクさせていたがその目つきは胡乱(うろん)に満ちていた、そう何か見てはならぬを見たそんな感じの目付きだった。 「さっさくら⋯だのか?」 「何を言っている私は私だ」 「そっそげんこつ⋯かぁ⋯」 私はまだ動きづらく兼三郎の肩を借り仲間の元へ戻ったが歓迎されるどころか皆、兼三郎と同じ目つきで私を見てくる。 「どっどうした皆して?」 「さくら、おっお前っ⋯」 兼三郎以外は戦の経験者であった、助かる者と助からざる者の見極めは出来る、そして昨晩のさくらは紛うことなき後者であった。 それが今、何もなかったように立って会話している、幾多の戦を共にくぐり抜けてきた仲間であったが流石にこれは受け入れ難い状況でそれ以上誰も何も話さなかった。 元軍は未だ志賀島を占拠して大宰府侵攻を虎視眈々と狙っており再度志賀島へ侵攻し元軍討伐を急いだ、能古島周辺でも海上戦が行われ志賀島の背後では黒煙が立ち上っている、志賀島は島と言っても陸続きで上陸は容易であったがその道は博多湾と玄界灘から絞られて細くなると進軍の脚は鈍重になりそれは元軍の石弓の格好の的であった。 しかしそれに怯むことなく志賀島へ上陸したが、高々周囲二里半の志賀島であったが山中各所に陣を張る元軍の討伐には時間を要した。 そして漸く討伐四日目最後の陣が陥落し元軍討伐は終了した、さくら達は奈多にある自陣へ戻ることにし志賀島北側の海岸線を進んだ背後には綺麗な夕陽が沈みつつあった。 「美しいなぁ」 私は振り向き夕日を見るとその逆光の中、仲間達の姿があった兼三郎、次郎太、杉、五十子皆健在で安堵した、私は手を振り仲間に背を向け奈多方向へ向き直った。 すると何かが背中に当たり鋭い痛みが走った視線を下げると剣先が腹から突き出ている何事かと振り向くとそこには血走った目の兼三郎が。 「さっさくらば返せぇー!」 そう叫ぶと他の三人も私に斬りかかってきた一太刀は頭部から胸に一太刀は肩口から脇腹に抜け最後の一太刀は腹部を突き刺し横に薙ぐ。 「こっこのっ物の怪がぁー!」 兼三郎は私を岩場から蹴り落とし私は玄界灘へと没し沈んでゆく、波間から私を見下ろす四人が見えた。 「どっどうして⋯」 夕日は沈み私は暗黒の闇へ沈んでいった。
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