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「なぁさくらカラオケ行こうよ」
「いいよ、いこいこ」
さくらの自称彼氏である環はさくらへ声をかけた、さくらは間髪入れず答えると2人は高校を後にしカラオケ店のある街の中心部へと向かう。
「なぁさくら今日はオールいけるでしょ?」
「嫌だね、また環変な事するつもりでしょ?」
「しないって、てか彼氏だし良いんじゃない?」
「誰が彼氏?いい加減な事言わないで下さぁい」
「・・・」
身長は160代後半、モデル体型でショートカットのその髪には部活を引退してブルーグレーのインナーカラーを入れていた、前髪の隙間から覗く瞳は生気を吸い取らんばかりに大きく、その中心にある虹彩はインナーカラーと同じく軽くブルーグレー。
その瞳は森奥深くにひっそりと佇む限りなく透明度の高い湖、その瞳で見つめられると老若男女、畏怖の念さえ抱きそうになる程に冷たく透き通っている。
友人からは芸能界を薦められる事も多かった、実際スカウトされる事も多かったが当の本人は全く興味がなくただ毎日何となく生きて行くのが自分は性に合ってると部活を辞めてからはダラダラと毎日を過ごしていた。
「今日は8時までね」
「えっーまじで?小学生だよ」
「知能は小学生だし丁度いいじゃん!まじウケる、ひゃっははは」
と突如、かるくヘコむ環の前に巨躯の男が両手を広げ行く手を阻むと卑猥に腰を振り何か叫んでいる。
「Gotcha!」
明らかに人を馬鹿にした態度とその表情に環は自分の身長を遥か上回る相手に対して突っかかっていった、さくらのいる手前無様な格好も出来ないそんな虚栄心の方が強かったのであろう。
「なんだよおっさん、何人だ、あっち行け!」
背後ではでたでたと環の強がる態度の一部始終を動画に収めようとさくらは鞄から携帯を取り出し携帯を構えた、その時さくらの頬に何か生暖かい物が飛んでくると白磁の様な透き通る肌をその生暖かい物は頬を伝い尖った顎先から携帯を持つその手に落ちる。
手元へ視線を落とすとそこには赤黒い液体が、それはさくらも毎月と目にする見慣れた液体で携帯を持つ逆の手でその液体を拭った、やはりそれは軽く粘度と温かみを持つ血液。
何故だろうと思ったさくらは顔を上げた、目の前では環が立っていたが今どうしてこんなところでと環は嗽をしているのだ。
「ガラッガラッゴロ、ゴロガラゴホッ」
「何してるの環?」
さくらは環の肩に手をかけると今まで気付かなかったが環のロングヘアーに隠れた項の辺りから赤く染った銀色の鋭利な突起物が飛び出していた、何だろうとさくらはその先端を指で触ると軽く触っただけなのにパクっと指先が割れた。
「痛っ」
さくらがその手を慌てて引っ込めると同時にその突起物は静かに響也のロングヘアーに吸い込まれ消えていった、するとみるみるうちに環の白いシャツは襟元から赤く染まると環は膝を着き崩れてゆく。
「there can be onlyone!」
環の影でさくらには見えなかったが男は剣を持っており、そう言うと左一文字にその剣を薙いだ。
まるで白菜を包丁で切ったような音が響いた、男は剣を鞘に収め両手を広げ天を仰ぐ。
目の前にいる環の頭部がまるでボールのようにコロンと身体から落ちコロコロとさくらの足元に転がってきた頭部の無くなった首からはそれが栓か何かだったかのように赤い液体が噴水の如く勢いよく噴き上げていった、さくらは全身から力が抜け地面へ座り込み目の前で起こってる想像を遥かに超えた現象に言葉を失った。
男は両手を広げ天を仰いでいたが暫くするとキョロキョロと辺りを見渡し不思議そうな表情を浮かべている。
「What the Hell?」
それは自分の行った行為を白々しく惚けているようにも見えたが実際は違っていた、男はある現象を待っているのだ。
『力の融合』
男は無闇矢鱈に人を殺める殺人鬼ではなく相手を探索し斬っていた、だから男には確信があった何故なら『力の融合』を待つ者はお互いに呼び合う。
しかしその待望の儀式が起こらない、男はあらゆる方向、距離は遥か遠くであるが次の相手のそれを感じている、そして目の前ではまだ男を強く呼んでいる儀式に至る手順に則って男の首を刎ねたというのに。
ここは街の中心、直ぐに人集りができると命が確実にひとつ消えたと言うのに承認欲求を満たす為、緊急通報をするより撮影しようと携帯を懸命に向けていた、しかしその騒ぎを聞きつけまもなくして警察が2人現れたが男は気に留めることもなくまだ辺りをキョロキョロ見廻している。
「武器を捨てろ!」
「Freeze!ray down your weapon!」
警官は男が剣を携帯しているのを見て拳銃を構え男へ叫んだ、しかし男は何と言われているのか理解できないのかそもそも聞く気がないのか警官を無視して事態の把握に集中していた、警官は拳銃を構え、もう1人の警官が男の前にへたり混んでいるさくらを保護しようとゆっくりとにじり寄る。
男はさくらを助ける警官の事など気にならないようで相変わらずその場で事の収拾がつかず惚けていた、警官がさくらの元へ到着すると背後から手を回し抱えあげ男からは目を切らない様にゆっくりと後ず去る、2メートル、3メートルとさくらと警官は男から離れてゆく、男は急に何かを感じ2人の方を睨んだ、さくらを守る警官は尋常ならない殺気を感じたのかホルスターから拳銃を抜きさくらの前立ちはだかり今度は後ろ手で背後にまわったさくらを押しながらゆっくりと男から後退した。
男は受け入れ難い状況を生まれ持った殺意で優しく包み込み簡単にその状況を肯定した、そして収めた剣を再び抜くと軽く振り回し獲物を指さす、それは警官に向けられているのだ。
男は思い返す、この世に生を受けて何世紀経っただろうか確かまだイギリスから植民地化される前、ネイティブアメリカンが大陸を駆け回っていた頃、男はそこで産まれそして現在に至るまで『力の融合』を繰り返してきた女は犯した事はあっても殺した事はなかった、男が指さしているのは警官ではなくその背後にいるさくらだったのだ男に定められた闘いのルールは至極簡単、相手と闘い首を刎ねそれを繰り返し最後に残った一人が至宝を手にする事が出来るただそれだけ。
その闘いに性差はなかったルールブックには記されていない、実際ルールブックなる物があるのかと言うとそういった物は一切ない、ただ感じ闘い生き残り至宝を手にするまでそれを繰り返す、単に男の前に女の戦士が現れなかっただけで今は目の前にそれを感じる女がいる、だったら斬るそれだけの事なんなら剣も剣技も身につけてなさそうな無防備な女、これ程楽なしのぎがあっただろうか男は笑いながらさくらへと向かってゆく。
警官が近付いてくる男に向け発砲し乾いた音が響く、しかし男は止まらない、離れていたもう一人の警官は止まらぬ男へ向け発砲しようとしたが射線上に呑気に携帯を構える群衆がいた、当てる自信はあったが万が一がある警官は射撃を留まると男へ近付き警棒による打撃、もしくはもっと近距離からの射撃を選択すると男へ駆け寄った。
さくらは未だ惚けていたその足は泥酔状態でもあるかの様によろけ後退する警官は視線を切ってさくらを抱え上げて一気に走り去りたいとそんなもどかしい心持で迫る男を警戒している。
さくらを守る警官は2メートルまで迫った男へもう一度発砲すると群衆からは呆れたことに歓声があがった。
銃弾は男の肩口に当たった、しかし男は何事も無かった様に迫り続ける、警官は男から視線を外しさくらを乱暴に両手で押し倒した、しかし男は止まらずに警官の横を素通りして行ったのだ、警官はどこへ行くのだと男を見た、刹那、警官の首元を疾風が駆け抜け被っていた制帽が宙に舞う。
警官は構わず振り返り男を追おうとする、しかしなぜか意志とは反して身体が動かなかった、どんなに力を込めようと動かないそもそも力はどう込めればいいのかわからなくなってきた、すると警官の視界には見慣れた制服の横をフラフラと落ちてゆく映像が飛び込んできた、不思議な光景だったコレは夢なのかと警官は職務を忘れ、人間である事を忘れた。
群衆の叫びがその警官の耳に届いたか定かではないが署から支給される見慣れたチョーカーが目の前を通り過ぎて行く。
男は歩道上に倒れるさくらの前に立っている、そして無抵抗の獲物を見定めるように剣を回しながらその周りを舐める様に歩き回り不敵な笑みを浮かべた。
「武器をおけ!さもないと発砲するぞ!!」
今更間抜けな言葉を残された警官が叫ぶ、男は軽く剣でさくらの脚を刺してみた反応はない、さくらの精神は既に崩壊していた男はまた何かを呟き剣を振り上げた。
「there can be onlyone!」
堪らず警官は続けて3発発砲した、これにはさすがの男も2歩3歩とよろめき歩道の段差でつまずきさくらの横へ倒れ込んだ、しかし何事も無かった様に立ち上がると再度さくらの前に立った警官は更に近づくと今度は逮捕術で男の背中へ飛びつき羽交い締めにすると膝裏を思いっ切り蹴りつけた、男はガクッと片膝をついた背中へ取り付いた警官を振り払おうともがき後頭部で警官の顔を打ち付けた鈍い音を立て男の後頭部は警官の鼻を潰し血が噴き出す、しかしそれでも警官は怯まず今度は首に腕をまわした銃弾を受けても平然な男も脳への血流が止められると普通の人間と同様に意識が消失しかけよろめいたが男はあろうことか自らの腹部に剣を突き刺すと背中へ取り付く警官ごと穿いた男は突っ伏し警官の重みもあり前方へ倒れ込むと剣は鍔の部分まで深々と男の腹部に刺さった自ずと剣先は警官の背中から更に突き出てきた警官は自分に何が起こってるのかわからずにいたが暫くすると首に掛かった腕から力が抜け大量に吐血すると意識を失った男はその腕が外れると自らに突き刺さる剣を呻き声を上げながら抜くと警官は宛ら男が脱皮した抜殻かのように背部に転がり落ちた。
男は腹部を手で擦りながら立ち上がる銃弾を数発受けた上に腹部には刺傷、さすがの男も肩で息をしていたが剣を杖代わりにまたさくらの前に立っていた、この時点で周りにいた群衆はその信じ難い光景に映画かなにかの撮影だと思い始めており現実に命が3つ消え去ろうとしている恐怖感はそこにはなく逆に二重三重に人集りが出来てき始めていた。
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