Highlander JK【Japan Knight】

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琉球で産まれた私は八歳の時薩摩に渡り武家のお屋敷の奉公についた、と言っても何か出来る訳もなく主な仕事は坊ちゃんの遊び相手と掃除片付け。 片付けは良いのだがこの遊び相手というのが辛かった、五歳の坊ちゃんの遊びは主に剣術の真似事でいつも私はやられ役、打ち返してはいけない斬られたら派手に転ぶこのお約束で進められ毎日打ち身擦り傷が絶える事はなく夜の仕事に差支え失敗をしては女将さんにぶたれていた。 しかしいつの頃だろうか遊びだった坊ちゃんの剣術はお師匠さんがつき指南が始まると私は呼ばれる機会が少なくなりお屋敷で別の仕事を言い付けられるようになった、毎日毎日嫌だった剣術ごっこ辞めてみると何だか寂しかったと言うよりも坊ちゃんに一度は打ち返してやりたいそんな気持ちが溢れていた、それから隙を見付けては道場を覗き坊ちゃんとお師匠さんの稽古の様子を伺い夜、体が空くと裏山で木の棒を片手に稽古を積んだ。 月日は巡り私は十六歳となり坊ちゃんは無事元服を迎えられたある日、私は立場も身分も考えずに坊ちゃんに戦いを挑んだ、稽古が行われている道場に行くと大声で叫んだ。 「忠義坊ちゃまお手合わせお願い申し上げます」 六人程いた道場は一瞬静まり返り一時置いて嘲笑の矢が私に突き刺さる。 「何を言ってるんだ、さくら」 坊ちゃんの言葉で嘲笑は爆笑にかわると道場の床を叩き蔑みを受けたが私は真剣な眼で忠義お坊ちゃまを見据えた、その真剣さを認めてくれたか定かではないがお師匠さんが忠義坊ちゃまに声をかけられた。 「受けてみては如何でしょう忠時殿」 坊ちゃまは元服を迎えられ忠時と改名されていた、すかさず私は言う。 「申し訳ありません忠時様、どうかお頼み申し上げます」 忠時様はしばらく思案に困っていられた負ける事はなかろうが昔遊んだ(よしみ)、だがあの時とは色々と立場が違う、相手が女子しかも下女とあっては受けること自体が恥なりかねないと言うより、これを受けても自分には何の功もないそんな感じだろう、諦めて口を開ことした時、忠時様から思いがけない言葉を授かった。 「わかった、では夕刻中庭にて受けてやる」 お師匠様も立ち会われるとの事、私には時間や場所は関係ないただ忠時坊ちゃまと手合わせをしたかった昔みたいに。 夕刻を過ぎ私は手製の木刀を持ち中庭で忠時様がお越しになるのを待っていた。 忠時様は約束を反故にする様な方ではない、しかし辺りは宵の時を迎えようとしており夕餉(ゆうげ)の香りも漂っていた、私は女将さんに本日のお勤め怠る事を理由を伝えお許しを貰っていたが女将さんは終始笑っていた、あの笑みの理由は何だったのだろうか、暫くしてその理由がわかった、ギシギシと板張りの床の軋む音が近付いてくると私の鼓動は高まった、私は急ぎその場に座して面を下げた。 「さくら、そこで何をしている持ち場に戻らんか」 面をあげるとそこに居たのは忠時様ではなく忠久様であった。 「申し訳ありません、しかし忠時様と試合の約束をしておりますのでどうぞお許しください」 「何、忠時とか?しかしあやつは半時前に出掛けたぞ」 「えっ、そんな⋯」 「はっはは、女子(おなご)との約束を違える(たがえる)とは中々どうして、許せさくら儂の方からキツく言っておくから」 「滅相もございません、下女との約束など⋯」 私は項垂れるとこの時間の持ち場である(くりや)に戻った。 「あら、さくらお早いお帰りだね、ふっふふ」
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