第一噺 犬の顔

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 そんなある夏の日、Bさんは部活動を終え家に帰って来た。  時刻はすでに十九時を過ぎていたが、まだ外は完全な闇に包まれてはいなかった。 「モコの散歩に行ってくるね」 「今日はやめといたら? もう暗くなってきてるし」 「大丈夫だって」  母の言葉にそう軽く返し、Bさんは家を出た。  家から出てきた彼女を見るなり、モコは尻尾を振り回し早く行こうと催促する。  それを愛おしく思いながら首輪をリードに繋ぎ、彼女は散歩に出かけた。  外は陽がもうほとんど落ちており、だいぶ薄暗い。  田舎だったという事もあり、道を歩いている人間はもういなかった。  田んぼ道を歩く彼女の顔に、生温い風と小さな虫がぶつかる。帰ったらお風呂に入りたい、そんな事を考えながら彼女は歩く。  そんな彼女の前をモコが歩く、いつものように少し勇み足で草むらに顔を突っ込みながら歩く姿はもう何年も見続けた姿だ。  やがて田んぼ道を抜け、二人は大きな道路に出た。  先ほどの砂利道と違いこの道は舗装されており歩きやすい、だが前述したとおりのまっすぐで開けた道のため、ここを通るトラックや車はかなりスピードを出していく。  だが今日は幸いにも、車は見当たらない。  後はこの道を三百メートルほど歩いて、また細い道に入り家に帰る。それがBさんのいつもの散歩コースだった。
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