第一噺 犬の顔

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 闇が濃くなってきた道を彼女は歩く、もうそろそろ家の前に出る 細い道に辿り着くといった所でモコがふと足を止めた。 「モコ? どうしたの?」  モコはBさんの方をちらりとも見ずに、田んぼの方を見ている。  大きくなり始めた青い稲が風に揺れていた、彼女は何かが田んぼの中にいるのかと思った。  鳥やキツネやタヌキのような野生動物を、モコは見つけたのだろうと。  だが何もいない、モコの視線の先には何もいなかった。  薄暗いとはいえ動物がいればさすがに気付くはずだが、何かを見ているはずのモコの視線の先にはただただ田んぼが広がっているだけだ。 「何もいないよ、帰ろ?」  そう言ってBさんはリードを引く、だがモコはびくとも動かなかった。  そうやってるうちに、道の先からトラックが走って来るのが見えた。  かなり大きなトラックで、しかもそれなりにスピードが出ているようだった。  トラックは、少しずつ二人の所に近づいてくる。とりあえずモコの事はトラックが行ったらどうにかしよう、そうBさんが考えていた時だった。  今まで全く動かなかったモコが、突然トラックに向かって走り出したのである。 「ちょ……ちょっとモコ!?」  それは今までに無いような、凄まじい力だった。  リードが手に食い込み、その痛みで彼女は顔を歪める。  トラックのヘッドライトの光は、どんどん近づいてくる。  Bさんはズルズルと引きずられ、左車線の中央まで連れて行かれた。 「ねぇ! モコやめて! 戻って!」  だがそんな叫びは虚しく、リードにかかった力は一向に弱まらない。  ただひたすらにモコはトラックに向かって走る、ガリガリと爪をアスファルトに立てながら、まるでトラックに飛び込もうとするかのように走る。  Bさんは一瞬リードを離そうかとも考えた、だが短く持つために手に巻いていたリードはぎっちりと手に食い込んでいる。  すでにトラックは彼女の目の前にまで迫っていた。
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