6.突然の連絡

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6.突然の連絡

取材がひと段落した久しぶりの社内での仕事中にデスクの電話が鳴った。大概の電話は私用の携帯電話に掛かかってくることが多い。デスクの電話機が鳴るのは他社員から転送された内線電話くらいだが、今日は他社員の出社もまばらで、誰かが転送したような様子もない。ワンコールで出ると、小さな話し声がぼそぼそと聞こえてきた。それは暁烏博士からの電話だった。 「テレビのニュース番組は見ていますか。」 小さな声でわずかに聞き取れたのはそんな言葉だった。 「おはようございます。いいえ。今日はまだ何もテレビは見ておりません。何かありましたか。」 暁烏博士から直接電話がかかってくるのは初めてで少し声が緊張しているのが自分でもわかった。次第に博士の声量が大きくなっていったが、私の意識は明瞭になっていった。博士曰く、テレビ、インターネットニュース、新聞数紙にてマグマ溜り研究所の有人掘削時に重大事故が発生していたが、その事実が隠ぺいされていたと報道されているとのことだった。ただ事故の詳細は語られておらず、マグマ溜り内で一定期間において掘削船の制御が効かなくなったことだけが報道されていたようだった。 そうなのですかと私は呆けた反応を示すと博士の声は珍しく怒気を帯び、さらにこう続けた。 「事故の事実はどこにも公表していない。先日、君の取材を受けた時に事故の話をしたたが、記事にはしないようにと念を押しただろう。なぜ、公表したのだ。」 やっと博士が何を言いたいのか私は理解することができた。 「私は頂いた情報をリークするなんてことはしませんよ。」 弱小地方新聞社が巨大な国立研究機関を相手に約束を反故にするようなことをするといかに恐ろしいことが起こるのか、私は十分に理解していたし、新聞社で十数年以上記者として働いてきた私にとって情報提供者との信頼関係が何よりも大事であることは痛いほどに理解していた。過去の苦い思い出が今の私の行動を律している。暁烏博士に対し、怒りの感情すら湧いてきた。私を甘く見るなと。 「私が書いた新聞記事を読んでもらえばわかってもらえると思いますが、事故の話は一切記事にはしていませんし、他社員への情報共有も一切しておりません。そこは私を信じてくださいとしか言いようがないのですが。」 私はリークなど絶対にしていないことを博士に丁寧に説明した。博士はまだ納得いかない様子でもごもごと言っていたがリークされた情報源を特定するために協力してほしいと博士は言い、会話は無下に切断された。なぜ掘削時の事故が報道されたのか、私には到底皆目つかなかった。事実を知っているのは、暁烏博士を含めたJMEAの一部の職員とたまたま取材でその事実を知ってしまった私くらいのものだから、なんとも奇妙なことである。私は狐につつままれたような気持ちになり、受話器を置いた。
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