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二人の間を思いっきり引き裂いてやろうとズカズカ二人に近づいていく。
「西宮! どうした怖い顔して」
川瀬が呑気に話しかけてくる。反省の色がないその顔が余計に腹立たしい。
「よぉ、川瀬。奇遇だな。でもお前はもうここで帰れ。てか、帰るつもりなんだろ?」
これから西宮と霧山は誕生日デートの予定だ。川瀬ははっきり言って邪魔だ。
「いや? 帰らねぇよ。帰るのはお前だ、西宮」
川瀬はどこか余裕のある笑みを浮かべている。霧山の恋人は俺だ。俺に勝てるはずがないだろと不遜な感情が頭をもたげてくる。
「川瀬。お前には悪いんだけどな、霧山は——」
「西宮! 言うな!」
霧山が止めに入る。
「だって霧山……」
「駄目だ! 言うな! そして西宮、悪い。今日の約束は守れそうにない。キャンセルしていいか?」
は……?
どういう意味だ……?
今日は霧山の誕生日で、前々からずっと二人でこの日を楽しみにしてたじゃないか。
「き、霧山……? ちょっと俺、訳わかんねぇ……」
「どうしても無理なんだ。ごめん……」
「何でだよ、理由を教えてくれよ」
急にキャンセルしろと言われて、はいそうですかと言えるような約束じゃない。西宮としては今日、霧山に「一緒に暮らさないか」とプロポーズにも似た言葉を伝えようと思っていたところだ。
最近二人とも仕事が忙しくて会う時間を作るのが難しくなっていた。一緒に暮らすことで少しでも霧山と一緒に過ごす時間を増やしたかったのだ。
「後でメールするから」
霧山はさっきから川瀬の存在を気にしている。川瀬がいる前では話せないということなのだろう。
それにしても誕生日デートをドタキャンするほどの理由をメールで終わらす気なのか。
でもきっと霧山には霧山なりのきちんとした理由があるはずだ。霧山は不誠実な奴じゃない。
ここは大人の余裕だ。
「わかった。霧山、お前の好きにしろよ。今日の約束は延期にする」
仕方がない。今日は霧山の誕生日だ。霧山の好きなように過ごせばいい。
「ありがとう西宮。じゃ、行こう川瀬」
え、川瀬……?
「じゃあな、西宮」
霧山と川瀬の二人は西宮の前を通り過ぎていった。
なんだこの状況は。
なんで俺一人が置いてけぼりを食らうんだ……?
しばらくその場に立ち尽くしていた西宮のスマホが鳴った。霧山からのメールだ。
『西宮。俺達別れよう』
たったこれだけの短いメールにこれほどまでにショックを受けたことがない。
『今までありがとう』
続くメールが、これは間違いじゃないと伝えてくるようで恐ろしくて目を背けたくなる。
『さよなら』
さっきまで雨音を聴いて浮かれていた自分は全てどこかへ消え去ってしまった。
今はこの小さな音がひとつひとつ残酷に西宮の胸を打ちつける。
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