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打ちつける雨音
降り止まない雨。ザァザァと降る雨は西宮のさす傘に当たり、それを伝って地面へと落ちる。
西宮は駅の改札口の前に立ち、恋人の霧山が来るのを待っている。
忘れもしない、霧山と互いの気持ちを初めて確認し合ったときも雨の日だった。
傘を持たない西宮に、霧山は自分の傘を差し出してきたのだ。そのまま借りる訳にもいかず、二人で肩を寄せ合い一つの傘を共有したあの日。
それ以来、静かに雨音を聴いていると霧山のことを思い出し、雨粒が跳ねるたび心も躍る。
今日は霧山の誕生日だ。そのため仕事終わりに二人でディナーでも食べようと言う話をして、レストラン最寄りの駅でひたすらに霧山を待っていた。
やがて改札の人波の中に霧山の姿を見つけて声をかけようとしたが、躊躇した。
霧山は一人きりではなかった。隣にいるのは霧山と同じ部署の同僚、川瀬だ。
川瀬は西宮の友人だ。川瀬は霧山のことを気にしており、会社のゴルフコンペで一緒にラウンドを回った時も「霧山って女みたいに可愛いよな」とか「霧山って付き合ってる奴いるのかな」などと話しかけてきた。
西宮が霧山の恋人だと知らないがゆえの言動なんだろうが、内緒にしてるのにまさか「霧山は俺の恋人だ、お前は諦めろ!」と啖呵を切る訳にもいかずに「さぁ」ととぼけた。
ふざけんな……川瀬の野郎……っ!
川瀬は霧山と話をしながら浮かれているに違いない。そして最も腹立たしいのは霧山と川瀬が二人きりでいることだ。
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