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藍……お前に会えなくなるなんて嫌だ。
「いつかまた会えるわ。人は誰でも死ぬんだから」
その切って捨てるような物言いは藍らしくて、俺はこんなときなのに思わず笑ってしまった。
藍。こんなに早く死んでしまったけど、お前は幸せだったんだろうか。
本当は、俺が幸せにしてやりたかった。
「そんなことより、健ちゃんは目の前の人を大事にしなきゃ。奥さんと可愛い娘。あとで後悔したって遅いわよ」
そうぴしゃりと言う藍の姿は揺らめいて、出会ったころの中学生のように変わる。
――わかっている。
幽霊なんているはずがない。
いたとしても、俺が結婚する前に死んだ藍が、娘がいることなんか知っているはずがない。
俺が見ている姿も、声も、全部……俺が頭の中で都合よく作り上げているものだ。
だから、しきりに家庭を大事にしろという藍の言葉は、俺が内心思っていることなのだろう。わかっていて、藍の姿を借りないと自分に言い聞かせられない。
「ごめんな。死んだお前に、まだ俺は頼ってるんだな。情けねぇよな」
俺は藍を――藍の墓をじっと見つめた。
もう、お前を安心させてやらないとな。
俺は墓の前に跪き、墓石そばの土を、落ちていた木の枝で掘り返した。
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