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ポケットからアクセサリーケースを取り出し、両手で包み込むようにしてから、掘った穴にそっと埋めた。
「これで、さよならだな」
少しずつ土をかける度に、胸に寂寥感が押し寄せる。
だが、もう一度掘り起こそうとする俺を止めたのは、唇を尖らせた憎たらしい表情の娘の顔だった。
立ち上がって、土にまみれた手を叩いて払う。
もう、藍の姿は見えない。
声も聞こえない。
これでいいんだ。
藍も、ようやく気が楽になっただろう。
俺は墓の前に置いてあった東京みやげの箱を取り、軽トラへ向かった。
蛍のか細い光が纏わりついては離れていく。別れを惜しむようにも、追い払われているようにも思える。
蛍の光は、死者の魂だとも言われる。
――心なしか、さっきよりも蛍の光が美しいと思った。
会えなくても、また来年も来るよ。藍。
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