帰省

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 結果として、俺は藍に気持ちを残したまま上京し、就職して、妻と結婚した。  それに不満だったのが、俺の母だ。  父とは逆に、母は藍と俺が結ばれることを望んでいたから。  母と藍は前世に何か縁があったのかと周囲が思うくらい、馬が合っていた。息子しかいない母は、藍が可愛くて仕方ない様子だった。何度も「藍が本当の娘になればいいのに」と一人ごちていたのを覚えている。  俺の結婚後も諦め切れず、事あるごとに妻と藍を比べ、それは妻に伝わる。最初はフォローしていた俺も、途中から妻の愚痴を聞き流すようになっていた。――内心、藍との比較を俺もしていたから。  藍。一年ぶりか。  藍の名前にも雰囲気にもぴったりだと、迷わず選んだアクセサリーケースの表面を、そっと指で撫でる。  ひんやりと滑らかなそれは、藍の素肌にも似ていた。  今年こそ、渡さなければ。  俺はそっと握りしめてから、ポケットにケースを戻した。
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