故郷

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故郷

 実家に着いたときには夜8時近かったが、空はまだ薄明で、実家裏の山影がくっきりと見えていた。  都会よりはましだが、日が沈んでも涼しくはならない。  このあたりが盆地のせいもあるだろう。  この、こもったような暑さも妻は毛嫌いしていた。実家の親が冷房を使いたがらないからなおさら。  玄関側の大きな窓が網戸にして開け放たれていたから、今日も冷房は入っていなそうだ。  玄関のガラス戸を開き、ただいまと声をかける。  すぐに奥の台所出入口から母が顔を覗かせた。 「おかえり。遅ぐなったな。――ほんとに由美さん、来ねがったのけ」  俺が一人で立っているのを見て、母が険しい顔になる。  来たら来たで、何かしらケチをつけていたはずだ。俺は構わずにボストンバッグの中からビニール袋に包まれたお土産を掴み出し、 「ちょっと、出かけてくる」  と言うと、靴だなの上に無造作に置かれたままの軽トラの鍵を掴んだ。  背後から母が「帰って来たと思ったらすぐに出かけるなんて、落ち着きのない」といった意味の詰るような方言を浴びせて来たが、俺はガラス戸をぴしゃりと閉めて遮った。
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