逢瀬

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逢瀬

 他に通る車もない道路に軽トラを置いたまま、俺は田んぼのあぜ道を山に向かって歩く。昼間の草いきれの名残が漂っている。俺の足音と、手に下げたビニール袋がかさかさと音を立てる以外は、何の物音もない。  ちらほらと、緑がかった小さな光が瞬いてはふわりと舞う。  数は減ったが、この辺りで蛍は珍しくはない。  それでも、この光景を目にすると、藍に会える時間が訪れたのだと実感ができるから悪くなかった。  あぜ道は山裾を上る細い道に繋がる。俺は半ば小走りのように足を進め、その先の開けた場所で顔を上げた。  そこを取り囲む、低い柵に腰かけてぼんやりと山を見上げる藍が目に入る。ゆっくりと近づくと、俺の足音に藍は顔を巡らせた。  薄闇の中の白い顔。困ったような、呆れたような表情。温い風に、艶やかな髪が波打っている。 「藍。一年ぶりだな」 「健ちゃん。――元気そうだね」  澄んだ瞳が微かに笑む。俺は見とれそうになり、無理に視線を剥がした。 「藍は……変わらない。綺麗だな」 「そう、思いたいだけじゃない?」  そっけなく言って、藍は俺の手に下がったビニール袋に目をやった。俺は中の包装された平べったい箱を取り出し、藍に渡した。バナナ味のクリームの入った、東京土産の定番のお菓子だ。 「お土産。藍の好きなやつ」 「覚えてくれてた?――え、何これ。柄違う。へぇ、キャラメル味なんだ」 「限定だって。藍はキャラメルも好きだったから、ちょうどいいなと思って」 「ふふ、そんなことまで覚えてるんだ」
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