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藍は箱をもう一度じっと眺めると、傍らにそっと置いて俺を見上げた。
「タバコ、ちゃんとやめた?去年、約束したよね?」
「うーん……ゼロ……にはできなかったけど、減らした。ニコチンの量も少ないやつにしたし」
「言い訳しないの。いつまでも若いつもりでいちゃだめ。健ちゃんには、守らないといけない家族がいるんだから」
親や、妻に言われると反発したくなることでも、藍にこうして言われると素直に頷いてしまう。
「ねぇ、わかったの?」
「わかったわかった。約束する。来年までに、絶対禁煙する」
俺がそう言うと、藍はその表情を陰らせた。
――急に、山から吹き下ろす風がひんやりとした。
「来年……来年?来年も、ここで会うつもり?」
細い声が、ぽつりとそう言った。
俺は答えられずに、低い崖の下を見下ろした。
田んぼの上を揺らめく、蛍の光。
少しでも長く――こうしていたい。藍と。
「健ちゃんだってわかってるでしょう。こんなことを長く続けるのはよくないって」
藍は責めるような色を隠さず、俺を見据え――しなやかな白い腕を、手のひらを上にして俺に向かって差し出した。
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