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「ポケットの中のものを、私に返して」
俺は思わず、上着のポケットを手で押さえた。
月も出ていないのに、藍の目がきらりと光った。
わかっている。
渡さなければならないことは。
だからこそ、こうしてここに持ってきた。
だけど。
「藍……これを返したら、お前はもう……俺に会ってくれないんだろう?」
ガキが、くすねた玩具を往生際が悪く返そうとしないような。子供じみた態度に、藍はあの、達観したような目をした。
「元々、会えるはずがないのよ。わかっているじゃない。――私はもう、死んでいるんだから」
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