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一部
知っている。
通夜から出た。葬式にも、火葬にも立ち会った。
藍の、まだ21歳だった瑞々しい体が、真っ白い骨に変わるところも見た。
俺は田んぼから首を巡らせ、山にへばりつくように立ち並ぶ墓石に目をやった。――ここは、集落の墓地だ。田舎では、住んだ場所を見下ろすような場所に墓地が設けられることがある。この地域でも代々続く墓が守り続けられている。
藍の骨も、ここで眠りについている。――ついていることになっている。
「健ちゃんが持っている私の一部。それに引っ張られて、私は上に行けない。――もう、終わりにしましょう。家族に対しても、不誠実よ」
俺のポケットの中のアクセサリーケースが、小さく震えた気がした。
藍の一部……左手の小指の、小さな小さな骨。
火葬の時の骨上げのとき、俺はそれを盗んだ。
藍と離れたくなかった。
藍の一部に触れていたかった。
藍を失いたくなかった。
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