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今ほど、ネット環境が充実していなかった高校生の頃、オレはいつも耳にイヤホンをさして、自分の中に音を取り込んでいた。
授業を除き、ずっと音楽を聴いていれば自然と同級生から距離をとられるのは明白だった。でも、それで良かった。
同級生たちと戯れることで得られることはそんなにないと思っていた。
あの雨の日までは。
窓際が定位置のオレの席で、いつも通り音楽を聞きながら、読書をしていた。放課後は誰も彼もが部活やバイトに精を出しているようで、教室に残っているのはオレだけだった。
完全下校時刻まであと1時間。
もう少しだけ、今読んでいるミステリーを読みたい。トリックの解決編手前まで。そこまで読んでから、家に帰ろう。
帰り道は、探偵のごとく推理して、夜ごはんと風呂を済ませてから、解決編を読む。
ミステリーの醍醐味といったら、まさにそれだ。
周りの様子を気にすることなく、オレがひたすら本を読んでいると、ふと視界の端に制服が入り込んできた。
誰か忘れ物を取りに来たのかもしれない。
まあ、いい。気にすることはない。
ガタガタと音楽を遮るような音がし始めると、段々と集中力が削がれていった。何かを探しているのかもしれないが、煩くしないで欲しいもんだ。
黙って読み続けていると、急に本当顔の間にニョキッと色白な手が割り込んできた。
さすがに、これは妨害行為に他ならない。
長くなった前髪越しに、睨みつけるように手の主を見ると、そこにいたのはクラスで1番人気の宇佐美円佳だった。
口を動かして何かを問いかけているので、仕方なく、イヤホンを外す。
「何か用?」
「ねぇ、どんなの聴いてるの?」
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