雨の音に踊れば

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 姉の影響で、幼稚園児のころからバレエを習っていた。  ストレッチは大変だし、振りを覚えるのも大変だった。  だが、不思議と嫌なものではなかったから、姉にくっついて年上のクラスの見学をしたり、ボーイズクラスでの練習に励んでいた。  踊りの世界でプロになりたい。  そう思うのも自然な流れだった。コンクールに出始めると、あっという間に姉の成績を抜いた。  音と溶け合って、踊る。  それが何よりも気持ち良かった。  学校でバレエをやっている男子はオレだけだった。物珍しさからか、からかわれることも多かったが、そんなのは気にならなかった。  今はただ踊りたい。  どんな役でも、どんな踊りでも。  大変なことなんて、踊れたときの快感に比べたら、たいしたことはない。  ずっと、ずっと踊りたい。  それがあの頃の願いだった。 「今度、ソロで出ないか?」  先生からガラコンサートでソロ出演を打診された時、天にも昇るような気持ちになった。  すぐさま、その話を受けた。  父さんも母さんも承諾してくれた。その頃、姉はバレエとは無縁な世界で過ごしていて、オレの踊っているところを観に来てくれたことはない。  毎日のストレッチ。  毎日の練習。  ガラコンサートが近づくに連れ、バレエが生活の中心になった。 「今度、フランスのあそこのバレエ学校の先生が観に来てくれることになった。これまで以上に力を入れないとな」  公演1週間前、先生から聞いた話は、想像していた以上の話になった。  国際コンクールに入賞して、スカラシップをとる以外にも、留学できることは知っていた。しかし、その門は狭き門で、本当に優れたダンサーしか呼ばれない。 「今度の公演の内容次第では、スカラシップ生として留学に誘うようだ。ほら、何回かワークショップにも出ていただろ?」 「その話、本当ですか」 「俺がフランスにいた頃の知り合いでな、今はスカウトと教師をしているそうだ」 「先生、オレ、必ずスカラシップをとってみせます」  自分の中にこれほどまでに熱い思いがあるのを今更ながら知った。  元々スカラシップが取れれば、留学するつもりではいた。国際コンクールも出て、入賞してもスカラシップの話をくれる学校はなかった。    但し、中学2年までに。  そこまでに、何かしらのスカラシップが取れない場合は、留学を諦める。  バレエ以外の人生も選択するかを考え始める時期だからと、両親と話して決めていた。  次のコンクールがラストチャンス。  その前に、この話を掴み取れれば、バレエダンサーとしての道が開ける。  そう思って、あのガラコンサートに臨んだ。
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