雨の音に踊れば

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 結果は、骨折。  数ヶ月もの間踊れない期間が続いた。ストレッチだけはやらないと気持ち悪いので、続けた。  その間、頭の中は、クレマンの言葉ばかりが巡っていた。  自分にとって、踊りとは?  そこからの日々は、自問自答ばかりしている。  コンクールからも公演からも自然と離れていった。  怪我が完治してからは、ひたすらに練習しかしていない。一つ一つの技術を磨き上げながら、これから先のことを悩んでいる毎日。  親も留学を諦めたと思い、バレエを辞めることを勧めなくなった。今は一つの趣味程度としか思ってないのかもしれない。  高校入学して数ヶ月経っても、この先の進路を決めかねながらも、バレエに対して未練がましくいる。  そこにあの宇佐見のダンスを見せられた。今ならわかる、クレマンはダンスを求めている。  俺には到底できない。  あんなにエネルギッシュに踊れて、それでいて何かに駆り立てるような踊りは。 「ただいま」  家に帰っても共働きの両親はいなかった。まだ仕事かもしれない。 「あれ、お帰り」  リビングのソファで寛いでいたのは、姉だった。 「どうしたの?」 「どうしたもこうしたも。出張がてら、寄っただけ」 「会社員って自由だな」 「そう? 毎日仕事しごとで自由じゃないよ」  とてもそうには見えない。  お菓子メーカーに入社した姉は忙しそうにしていたけど、なんだかんだ楽しそうにもしている。 「辞めてないんだ」  テレビの脇に置いてあるオレのバレエシューズを見つけた姉は、懐かしそうに見ていた。  返事に困っていると、姉は宝物を扱うような手で姉はバレエシューズを撫でる。 「楽しいよね、バレエ」 「楽しい?」 「あんたの踊りが1番好きだけどね。あんなにキレイに見せるられると、芸術ってこういいうものかって」  意外な言葉だった。  オレの踊りをそんなふうに思っていてくれていると思わなかった。 「あんた昔からキレイに見せて踊るのが得意よね。あの時は無敵って感じだし」 「でもダンサーはエンターテイメントをできなきゃいけないんだろ?」  オレの言葉に困ったような顔をしながら、姉はオレに言う。 「踊るなんて人それぞれじゃない」
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