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「それぞれ?」
「当たり前じゃない。何のためにとか、それこそ人それぞれ、よ」
「なんで姉ちゃんは辞めたの?」
思っていた話の方向から急転換したオレの話に、姉は目を丸くしていた。
頬を掻きながら、やや伏し目がちに小さな声で姉は言う。
「毎日ストレッチとかめんどくさかっただけ」
姉の答えに今度はオレが目を丸くする番だった。
「え、そうなの?」
「みんながみんな、あんたみたいに好きでやるわけじゃないの!」
姉が声を大きくしてこういう時は決まってばつが悪い時だ。きっとオレにも言いにくいことがあるかもしれない。
「好きなことを続けられるのがどれだけラッキーかしらないあんたは、小さいことで悩みすぎ! いい加減認めなさいよ、踊ることが好きだって!」
「オレが?」
「当たり前じゃない!毎日飽きもせずにストレッチ、練習って、好きじゃなきゃ続けられるもんじゃないのよ。よくわかんない人の言葉ひとつよりも、あんたの踊りが好きな人の言葉を信じてみなさい!」
姉の言葉に、宇佐見の姿を思い出した。
あんなに晴れやかな顔を見せた彼女。
オレは彼女にどう返したら良いかわからない。
「オレ」
「ぐじぐじ、ウザい! いいから気合い入れて踊りなさいよ!」
バレエシューズを突き出してきた姉の手首を持ち、少し見下ろすように姉を見た。気の強さは健在で、いつもその鋭い目に気後れする。
でも、この目から逃げてはいけないと思った。
これはオレが決めなくてはいけないことだから。
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