午後の山手線

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商談が早めに終わったので、新宿伊勢丹に行ってみようかと思い立った。 職場には「17時帰社予定」と伝えてある。 今は14時半。 やるべき仕事はやったので、少しぐらい構わないだろう。 そう思って山手線に乗り、ドア付近の席が空いていたのでそこに座ろうと思ったが、一緒に乗った女の子がリュックにヘルプマークを着けていることに気づいて彼女に譲ることにした。 女の子が私に一礼して、座ろうとした。 片足が悪いのだろう、引きずっているように見える。 すると、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけピンクハウスのワンピースを着た推定50歳の不潔そうな女がフラフラとした足取りで女の子に近づいてきた。 そんな変な女が自分に近づいてきたら、逃げたしたいと誰だって思う。 ましてや、その女は座ろうとしていた女の子を眼鏡越しに睨み付けたのだ。 誰でもビビる。 女の子が真っ青な顔で後退りをした瞬間、女が座ってしまった。 乗車客全員の 「ええー!?」 という心の声が聞こえてきた。 お前、それでも人かよ。 だけど、女は知らないふりを決め込んでいる。 この野郎ざけんなよ、と思った。 何か言ってやろうと思った時、反対側の座席を陣取っているギャル集団が大爆笑。 全員凄まじいメイクをしている。 グロスでテカテカした口を開いて 「違くね?アイツじゃ無くね?」 と言って笑っている。 ちょっと怖い。 「だけどあの格好マジかよ。ヤバくね?変じゃね?」 笑いながら女を非難している。 無視していた女も、ギャル集団に笑われるのは耐えられないらしくて 「あなたたちに言われる筋合いはなーい」 怪鳥の如く叫んでギャルに反論。 やっぱり、コイツは普通ではない。 「バカそうな化粧したあんたたちに言われたくなーい」 すると、集団はまた爆発。 「確かにウチらはバカだけど、ヘルプマークの女の子から席を強奪するような真似はしませーん」 「ついでに似合わないピンクハウスを着ようとも思いませーん」 「バカなりにちゃんと考えてまーす」 限界にきた女がギャル集団に襲いかかろうとした時、数人の男性が女を取り押さえて次の駅でホームに摘まみ出した。 「ごはんですよ」の広告みたいに眼鏡がずれた姿が哀れであった。 こうして女の子は無事に座席に座り、ギャル集団は赤羽で降りた。 渋谷に行くものと思っていたので意外であった。 私は予定通り新宿で降りて、伊勢丹やルミネを物色して会社に戻った。 週末、私は入院中の叔父の見舞いに病院に寄った。 そこで私は、あのギャル集団を見かけた。 驚いたことに、全員看護師さんだった。 バカではなかった。
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