君を食べたい

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 腕をほどき、今度こそ体を起こした。  繋がっているそこをまじまじと見る。指の比にもならない太さのモノを咥えているその光景は、遠慮がちに言って最高の眺めだ。嘘はないのに、愛おしいという感情がないと、なんだか無慈悲なことをしているように思えて仕方ない。でも、それでいい。その方がいい。  リアの手をつかみ、指を絡ませる。前後に腰を動かせば、その表情は女のそれでしかなかった。  真っ黒な瞳が揺れているのは、炎のせいだ。だらしなく開いた唇も、そこから聞こえる甘い声も、遠慮がちに動く可愛らしい胸も、決して僕を誘っているわけではない。それなのに、それなのに……  興奮が止まらない。  顔を歪ませるのは、もはや痛みではなく快感からのそれだろう。生理的な涙さえ、僕を煽る。音にも刺激され、そろそろ絶頂に手が届きそうだった。  彼女の両足首をつかみ、夢中で腰を振った。  僕の欲は、リアの中で大きく弾けた。  カラダを震わせながら自分を抱きしめる彼女を見ないように、勢いをなくした僕自身を引き抜く。飲み込みきれなかった僕の欲が、てらてらとした彼女のそこから少しばかり溢れ出ている。それを、厭らしい目で見ながらはっとなった。彼女の血が、毛布を汚している。僕の手のひらを広げたくらいの大きさにその血は広がっていた。途端、鮮血の匂いに軽いめまがした。 ──食べたい、食べたい、君を食べたい。  体の奥から何かがみなぎるような感覚に襲われる。リアを抱き起こし、自分の上に跨がせるようにして向かい合って座らせた。彼女は、気怠そうなカラダにどうにか頭を乗せているといった感じだけれど、嫌な顔どころか、頬を緩めている。  僕のそこは、再びびくんびくんと主張し始めた。 「……もう一度、いいですか?」  顔を合わせ聞くと、一瞬驚いた顔を見せつつも、僕のそこが異常なまでに動いていることに気付き、「はい」と答えた。  リアの腰を浮かせ、ゆっくりと落とす。彼女の尻をつかんで前後に揺さぶれば、ずいぶんと気持ちの良さそうな顔をした。 「自分でしてみて下さい」  わがままにそう言えば、僕の首に手を回し、自ら腰を振り始めた。本当に初めてなのかと疑いたくなるほど、その腰つきは妖艶で、僕をさらに興奮させる。  次第に、リアに抱かれているような感覚になっていった。何というか、僕には主導権がないと言うか、最初から彼女の意思でこうなっていると言うか。もはや、彼女に全てを委ねていればいいという安心感すらあった。そう思った途端、体が何かに包まれるような気がした。いや、そもそもずっとそうだった。生温かくて柔らかい、湿り気を帯びたそれは、門をくぐったあの時から、僕の体から離れてはいなかったんだ。  想像よりもはるかに気持ちいいのだろうか、リアの腰が止まることはない。  物欲しそうな顔で僕の唇を見つめている。その気持ちは、分からなくもなかった。体は繋がっているのに、僕たちは未だ唇には触れていない。僕としては、正直なところ意識的にそうしていた。  先ほど回収しなかった感情が、回収せずとも自分の中に入ってきそうだったからだ。一番厄介なくせに、心が満たされてしまうそれは、一度受け入れてしまうと手放すのが難しい。  リアの視線に気付かないふりをしながら、体から一向に離れていかないそれの存在のことを考えていた。ともなると、考える余裕すらあるのかと薄情な自分に舌打ちをしそうになる。  目の前で、リアの可愛らしい膨らみが遠慮がちに揺れている。むしろそれが良かった。言葉を選ばずに言うならば、めちゃくちゃエロい。  気付けば僕も、下から腰を突き上げていた。そうしているのに、やはり彼女に抱かれているような気分だった。  声にならない声をあげながら、先に絶頂を迎えたのはリアだった。僕にしがみつき、びくんびくんとカラダを震わせている。そんな彼女を抱きしめながら、これが最後だと、激しく腰を振った。  意識を手放した彼女を毛布の上に寝かせ、脱いでそのままの服をさっと彼女のカラダにかけた。炎に照らされた横顔は、先程までとは全く違い、幼さを残したそれでしかなかった。  口付けの代わりに、彼女の唇に指を沿わせる。  生温かくて、柔らかくて……  驚いたのと、尻餅をついたのは同時だった。僕の親指は透け、彼女の唇が指の上から見えている。半分ほどしか見えていなかった体が、どんどん消えてなくなろうとしているのだろうか。だったら早く、彼女を、彼女を、彼女を……  彼女は一体、誰だ。  確かに名前を聞いたはずなのに、そこだけ記憶から抜け落ちたみたいに全く思い出せない。  彼女を起こそうと手を伸ばすけれど、もはやそのカラダには触れられなかった。ここへきてようやく、自分は本当に消えてしまうのだと悟った。半分どころか、存在ごと消えてなくなってしまう。  そもそもこうなる運命だったのなら、全ての感情を回収しておけばよかった。
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