ヴァレンタインデイ

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(トントントントン・・・・・・) キッチンナイフでチョコレートを刻む。  細かくなったチョコを湯煎して、とろとろに溶けたところで、ストロベリーリキュールを加えてよくかき混ぜる。  彼は苺が大好きなのはリサーチ済み。  せっかくの手作りなんだから、ひと手間かけなきゃ。  ハートの型に半分まで流し込んで、冷蔵庫で固まるまで寝かせる。  買い物から帰ってきたママが、普段まったく料理なんてしない私の、左手の人差し指に巻かれたバンソーコを見て「言わんこっちゃない」みたいな顔をする。  ひどぉい! めっちゃ痛かったのに! 少しくらい心配してくれてもいいじゃん!  もう! ママなんて無視無視。  固まったチョコの上に、先に作っておいた、こちらも市販のベリーソースにひと手間加えたものを流し込んで、その上にまた溶かしたチョコを、型のぎりぎりまで入れる。  あとは冷蔵庫に入れて待つだけ。  お風呂上がりに冷蔵庫を覗くと、チョコはいい感じに出来上がってる。  カワイイ包み紙でひとつひとつ包んで、ラッピング袋に入れてキラキラのリボンで飾る。  うん、めっちゃ可愛くできた。    2月14日。  やっぱり彼は女の子たちから、たくさんチョコをもらってる。  みんなと同じように学校で渡しても、彼の印象に残らない。  私は、彼の家のそばで待ち伏せ作戦。    陽が落ちて、空が素敵な色に染まったマジックアワー。  寒さも忘れて景色に見惚れちゃう。 「杉田?」  不意に聞こえた声に、視線を向けると、彼がすぐそばに立っていた。びっくり!  慌てて向き直りながら、カバンからラッピングした手作りチョコを取り出して、彼に差し出す。 「あ、あの、このチョコ受け取って」  あぁん、彼の前だと、いつもぎこちない動きになっちゃう。 「ああ、ありがと」  彼は貰い慣れた様子で受け取ってくれた。 「ん? その指どうしたの?」  私の左手人差し指に巻かれた包帯を見て、彼が言う。 「え、あ、ちょ、ちょっとね」  慌てて手を身体の後ろに回す。 心臓がすごくドキドキしてる。  ここで勇気を出して言おう。頑張れ、私。 「あの、私、ずっと前から高位くんのことが好きでした」 「・・・・・・こうやって、面と向かってはっきりと言われちゃうと、なんか照れるな・・・・・・ありがとう」  彼は頭を掻きながら言う。 「もしかして、これ手作りチョコ?」  やだ、高位くんの顔が近い近い。 「う、うん・・・・・・あ、あの、よかったら、ここで食べてみてくれないかな?」  いっそ勢いで言ってみる。 「え、いいの?」 「うん、食べてみて」  彼はラッピングを開いて、チョコを一粒つまんだ。  心を込めて作ったチョコレートが、高位くんの口の中へ入っていく。 「・・・・・・うん、美味しい!」  彼の表情がほころぶ。 「チョコに苺の風味がついてて、中にも濃厚なベリーソースが入ってる! 俺、いちご大好きなんだよ」   やったぁ! めっちゃ嬉しい!  大好きな高位くんが、私の名前の通り「愛」をいっぱい詰め込んだチョコを食べて、美味しそうに微笑んでる。  彼の口の中でチョコレートが溶けて、ベリーソースが溢れ出し、喉仏がゆっくりと上下して、飲み込まれていく。  なんだか身体がゾクゾクして、口元に笑みが浮かんできちゃう。  他のコたちのどんなチョコレートより、絶対私のチョコがいちばん心がこもっているし、絶対にいちばん美味しい。  だって、あんなに痛い思いをして、ベリーソースにたっぷりと私の血を混ぜたんだから。
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