ブラザーコンプレックス 2

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早速聞き覚えがある弟くんの声と、初めて聞く声が中庭に通じると教えてもらっていた扉をすり抜けて私の耳に届きます。 ただ、私といえば驚きで足を止めてしまっていました。 "といえ"というのは、故郷では結婚を意味をする言葉で、意味をそのままに受けとれば、弟君は中庭に共にいるという、奥さまの言うには"新しい兄さあ"に求婚をしていることになります。 その"新しい兄さあ"さんについては、こちらに越してきた時に出会った新しい使用人というのも私は聞いていて、お兄様と同年というのもあって、扱いになっているとも、聞き及んでいました。 低く落ち着いた声で、お兄様代わりをしている使用人は、どうやら弟くんを背負って仕事をしているようで、それは大変だと思うのですが、口の聞き方としてはどうなんだろう?と思ったところで、私は中庭に改めて足を進めます。 「!、誰かいらっしゃいますか!?」 私の気配を察知したのか、突然使用人が鋭い声を出したので、思った以上に足音を私はたててしまいました。 「悪者(わっもん)か!安心しろ、おいがをまもっけんね!」 「あっ、こら、お坊っちゃん、1人で行くな!」 そして、声の調子から推し量るに弟くんは"結婚(といえ)したい"使用人を、守るべく背中から飛び降りて、どうやら私の方に向かってきているようです。 そして次の瞬間には、中庭の扉を蹴破るようにして飛び出した、弟くんの子供用の竹光の一刀を私は何とか避けたところで、首もと押さえた使用人さんが続いて飛び出てきました。 どうやら、"結婚(といえ)したい"使用人を守ると豪語したのは立派でしたが、それまで背中におぶっていた弟くんに飛び出すように出ることで蹴られてしまって、痛めてしまったのが伺えます。 「あれ!は」 「お久しぶり、引っ越してきてからも元気そうで何よりだよ」 そして弟くんは子供用の竹光を手にしたまま驚いて、私の顔を見上げたので私も挨拶を返しました。 ただ、すぐ後ろに仏頂面で怒気を含んだ、首を押さえた使用人が立ってもいます。 私が言葉を挟むかどうか迷っている内に、使用人は「ムン!」と声を出して弟くんを抱き抱えていました。 それは声こそ勇ましいけれども、弟くんを抱き抱える様子は、今は遠方に行っているというお兄様を彷彿とさせる、丁寧なものでした。 「坊っちゃん、"私"の話を聞いていますか?1人で行ってはいけません」 「許して(ゆっして)くいやい、わいになんかあったら、男として情けなか」 わんぱくで、ちょっとだけ(ということにしておこう)、わがままではあるけれども、とても素直でもある弟くんは直ぐに使用人も謝罪を口にします。 その様子は、かつて故郷で金持ちの上に生意気だからと、悪がき5人に囲まれてもいつのも優しい笑顔を不敵なものにして、あっという間にのしてしまったお兄様を一撃で腰砕けにしてしまう弟くんの、可愛らしさを詰め込んだ表情と同じものでした。 あの時、お兄様は「むぜっ!」と悶絶していましたが、こちらの新しい使用人はかすかに「……いとしげらっ」と溢すのが私の耳に入ります。
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