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そんなこんなで、互いに自己紹介を終えて、使用人の方はこちらの屋敷では皆が御国言葉なので、標準語をお兄様から教わっている弟君が通訳兼子守りとして、毎日一緒に過ごしていると話してくれました。
そして弟くんは元気よく「おいのといえ相手!」と、話をしめるように抱っこをしてくれている使用人に、お兄様がこの場にいたのなら羨ましがりそうな頬擦りをしています。
使用人の方といえば、"結婚"の意味をわかっているのかどうかはわかりませんが、顔に「めんどうくさい」の7文字を貼りつけている様な表情を浮かべつつも、一応使用人として、屋敷の案内をしましょうか?と申し出てくれました。
正直、1人で探検も悪くもありませんでしたが、元気な弟くんと一緒に、子守りの使用人さんを伴ってするほうが俄然楽しそうに思います。
そんな風に考えているところで、「にゃ~」と実に分かりやすい猫の鳴き声が聞こえてきて、弟くんが実に分かりやすく使用人さんに抱えられている腕の中で跳ねました。
使用人は実になれた調子で、顎に激突しそうな弟くんの頭を躱していたところで、視線は弟くんの向けている方と同じ箇所に向けます。
「ん!おいは良かこと思いちた!ねこちゃん、ねこちゃん!なあ、ねこちゃんみせちゃる」
そして視線を戻す間もない内に弟くんが、屋敷探検ならぬ、猫探しを提案します。
私は猫を飼っているという話は聞いてはいなかったので、当惑をしていると察しの良い使用人さんが説明をする為に口を開いてくれていました。
「飼い始めたのは、本当につい最近なんです。3匹坊っちゃんが見つけて拾って、まあ、ネズミ避けにもなるからと。一応、俺ともう1人のこっちも最近から外から雇い始めた庭師で面倒を見ることになったんですけれども……」
「あいつの話すっな!」
使用人が丁寧に説明をしてくれているのを、弟くんが遮る形で止めました。
抱っこされている使用人の腕の中で、実に分かりやすく機嫌を悪くしているのが伺えたところで、今度は事情をうかがっていいいものかと私が迷っている内に、弟くんがぎゅうと抱きつきます。
「あんわろ、きれじゃ、わいとおいがといえできんとかいいよる」
「……とまあ、お坊っちゃんと俺と一緒に猫の世話をする奴とは、どうにも仲が悪いんですよ」
一連の説明はわかったのですが、弟くんは機嫌が悪くなってしまったようで、このまま猫探しを続行するのかどうか悩んでいたところで、使用人がポケットから何かを取り出しました。
それを私に向けて差し出すので、慌てて手を伸ばして受けとります。
それは麻袋にたっぷりと入っているなにかのようでした。
「煮干しです。これを出したなら、匂いで直ぐによってくるので。
俺……私は、時間的に坊っちゃんを厠に連れて行ってから戻りますんで、良いでしょうか?」
「わかりました、じゃあ、あとでね」
弟くんに声をかけたのなら、弟くんは小さい声で「あい」と返事をして使用人に抱えられて、いってしまいました。
改めて、広い中庭で1人になってから早速煮干しを取り出したところで、観葉の為におかれている植物の方で音がしたので、使用人が言っていたとおり、猫がきたのかと振り返ります。
けれども、そこにいたのは私よりも少しばかり年上と思える少年が銃を携えていました。
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