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 それから数日後のことである。 「莉奈(りな)のバカ!」  琉美(るみ)はリビングに立ち尽くす莉奈にそう言い放つと、バタンと大きな音を立ててドアを閉め、家を飛び出した。  リビングのテーブルの上には食べ終わったプリンの容器が置かれていた。琉美が楽しみにしていたプリンを莉奈が間違って食べてしまったのだ。  莉奈は琉美の態度に驚いて、すとんと脚の力が抜け、ぺたんと床に座った。  それからまた、別の家では。 「哲哉(てつや)、お前ってやつはもう!」  丈瑠(たける)がバンとダイニングテーブルを叩き、その勢いのまま、家を出ていった。  ダイニングテーブルには哲哉のペンケースが開いたまま置かれていた。この間買ったシャーペンは入っているものの、消しゴムは入っていない。哲哉は丈瑠が新調したばかりの消しゴムを借りたまま、学校でなくしてしまったのだ。  哲哉は丈瑠の勢いに押されて、少しの声も出せなかった。  琉美は住宅街を歩いている。哲哉も同じく歩いている。二人ともむすっとした顔をしている。頭を冷やしにいくために歩いているのだ。  空の雲は濃い灰色で重かった。今日も雨が降りそうだ。  琉美も丈瑠も、角を曲がった。ここを曲がればあずまやのある公園に入れる。  二人の頬をじめじめとした風が撫でる。二人とも、この時点でだいぶ頭は冷えてきたけれど、すぐに家に戻る気にもなれなかった。  こうしてきょうだい喧嘩の反省はすぐに繰り返されたのである。
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