第十一話

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第十一話

深夜、仕事終え、家に帰る。 途中、十分注意するよう言われた。 監獄の星? 短命の星で、そこへ送られると死を意味すると言う。 彼らは俺たちから下得体のしれない神の存在、肉体が滅びても存在が残れば、それで人を操る事はたやすいそうだ。 脱走したのは、その星が砕け飛んだのと同時期、誰かが手助けをしたのではないかと思っていた王たちだったが、それを裏付けるものがなかった。 脱獄したのは、神族、ハレル、お付きのセノー。黄泉族、貴族ロック伯爵 ロックという男は、ハレルの口車に乗せられ、黄泉の王を抹殺しようとした。 王子が見つけたサングラスの男は、このロックに似た容姿であったから、そう思ったそうなのだが、なんと確認してもらったらロックの隠し子だと言うことが分かった。 ロックの消息はつかめていないと言う。 何故隠し子が日本にいたのか? それは、ロックの愛人が時を同じくして、黄泉の国から消えたこと。 彼女も投獄されると思ったのか姿を消した。 この女が脱獄に手を貸したのではないかと言われていたそうだ。 俺たちが見張られていると言う事は、家族も見張られているのだろうか? ここでやめる? 再就職に喜んでくれた子供たち。 給料と社員というだけで、泣いて喜んでくれた妻。 守りたい。 駅を降り、朝霞のニュータウン、深夜までやっていたコンビニもだいぶ減った。 トントン、肩を叩かれ、はっと振り返った。 「おかえり」 「なんだ、伸男か」 「誰だと思ったんだよ」 長男、サラリーマンは聞こえがいいが、どこも大変だ。 「仕事納めは28か?」 「そうだけど」 話しておくか。 「実はな」 「はー、疲れた」 でもこの疲れは心地いい疲れだ。 コロナで苦しい思いをした二年間の事を考えれば、ずっと楽だ。借金は、彼らに出会っていなければ首をくくっていたかもしれない。 あのビルの契約は五年だった。 手付、前家賃、騙されているなんて思ってもみなくて。それほど順風満帆だった。 三年残して立ち退き、弁護士を立て、家賃全額免除。 それが大きかった。 戻って来た金は借金返済にすべて当てた。 「ミノル、風呂」 「入るよ」 俺も実家へ戻った、親に負わせなかった借金だけでも自分をほめなきゃ。 でも、この先。 腹をくくった。今話しておかなければ。 あの場所で、俺は料理人としてやっていきたい。 「母ちゃん、話があるんだ」 「やったー」 「やったじゃねえの、受験だぞ?」 「戻れるんでしょ?」 「簡単に言うわね、もし地球が無くなったらどうすんのよ」 「それはそれでいいんじゃね?俺たち生きてるんだ、向こうで生きるだけ~」 「お気楽ね?じゃあ、家が向こうに行くだけで、他は関係ないってことね」 「そういう事、たださ、気になる事がある」 「見張り?」 「まあそれもあるんだけど」 俺は、こっちにいる人たちがどれだけの力を持っているかわからない、ただいまそれを使わないのかつかえないのか、俺たち家族は今、外に出ることはないけど、シンさんやミノルの所にもしもという事が無いか心配なんだ。 そうね? 何か気になる事があるのか? 俺は朝刊を持って来た。 「新聞?」 実は、あるお方がこれをじっと見ていたんだ、どこを見ていたかはわからない、でも今、俺たちに関係あることはなんだと思う? 物価高? ガソリン高騰。 同じだろ? 何だろう?と姉ちゃんも手にした。 「三面記事、下にある事故」 事故? 「えーと、朝霞警察署によると、男性の身元はわかっておらず深夜、最終電車でよく来る客層に似ていて事故と事件両方から調べている。路上での事故死?」 「これがどうかしたの?」 「シンさん、朝霞なんだ、それに時間帯」 「終電でよく来る?」 それだけじゃ分からないけどな。 「変わったことは?」 「ない!」 「お前のないは、心配だな?」 そう言うのならお前が見てろ。 わり―、わり―。 チッ、手を出すなって言われてたのに、手を出しやがって、これだから人間は使えねえ。 プー、プー。 「はい、え?うん、戻りまーす」 みんながねぐらに戻ったか、後四日?さあどうする? 布団に入ろうとしたらスマホが点滅。 ラインを開けると、明日の朝話があると言う二人。 オッケーと返した。 後四日、何もなければいいけど…。 朝、俺たちが集まると、やはりシンさんから新聞の話をされた。 狙われたのは俺だと言うシンさんに寒気がした。 そして、ミノルの方は、実家に帰って安心していたのだが、彼には母親だけしかいない。その母親は年金暮らしだ。 「これを見てくれ」 そこに出されたのは金融会社からの融資をほのめかす書類。 何処から漏れたのか、すべてミノルから、借金をしたので返してほしいという内容もある。 母親には、絶対借金はないからと言っていたが、隠せなかった、母親は全て知っていたと言う。 ただ、彼を信用していたからこそ、ただこの紙を取っていただけで、実際何をされたと言う事はないそうだ。 おれおれ詐欺の様な電話もスルー、家にまで来るのは知らないふりでやり過ごしていると聞き、母親一人、心配なので、俺は全てを打ち明けたと言うのだ。 いくら一人だと言っても、母親の大事にしてきた思い出の家、俺が勝手にするわけにもいかない、だから、もしもの事があったらと思い話そうとしていたら、母親の方から切り出された。 「で、母親と話をして、こっちで預かってもらえないかと思って」 「あずかるって?」 三十日の日、俺たちは奈良へ行くことにしている、今何処へ行くかは検討中だが、行くとしたら、大阪、京都のコストコ、奈良、郡山にある市場が上がっている。 お母さんは、旅行に行くと言い出したそうだ。 「ちょっと待ってくれ」 シンさんが割ってはいってきた。 彼もまた、全てを長男に話し、こっちへ来ないかということに持ってきたそうだ。 二人は見張られているのは、彼らも、その家族もだという。 シンさんの下の子たちは、すでに、学校帰り、何らかを感じ、外へ出たくないと言っているそうだ。 もし、それが今のと関係があるのなら、二人は、せっかくもらった仕事を、そんなのやつらにダメにされたくないと、戦う決意をしたんだそうだ。 戦う決意か。 俺は内線を取り、7人衆の一人でいい、手の空いている人を頼んだ。 来てくれたのはマーキュリーさん、彼は俺達の話をじっと聞いていてくれた。 「では、ヒロム以外の所にも、誰かしら来るということか?」 「はい」 「たぶん、ですが、確実に言えるのは、俺たちの家族も狙われているということだ、なにをさせるかわからないし、実際家族に成りすますかもしれない、でもこっちにいるのが解ればそいつらは犯人だ、そうだろ?」 「わかります、それはわかるが、旅行と見せかけ奈良かというのも危険です、そこはわかってください」 ですが。 「そこは任せてくれませんか?三人はいつも通り、仕事をしてください」 任せよう、魔王様を俺らが信用しなくてどうする。 ですね、お願いします。 頼みます。 その話を聞いた魔王様は、信用という言葉を聞かれるとすぐに立ち上がってくださったそうだ。 二十九日、その日は朝からにぎやかだった。 「待てー」 「うるせーな、もう少し寝かせろよ」 「なに言ってんの、忙しいのは女だけなんて時代錯誤、起きろ、さっさとしたく!」 えー? 餅つきだ、もう始まってる。 マジか? 起き上がると、そこには、あーそうだった。 足の踏み場のないほど散らかった部屋。 仕事をおえると、魔王様に家は、こっちに持ってきたという。 ここは、兵士たちが使う体育館のような場所、冬場は使わないということで、俺の家、それも外観のない、中の骨組みがしっかり見える中身だけがここへ来た。 屋根がない、壁がないと言っているのはシンさんの下の子たち。餅つきといっても機械だけどな。 おはようございます。と声をかけたのはミノルのお母さん。 機械のそばに居るのは、ミノルとシンさんの長男さんだ。 外?家から出ると、校庭の様な広い屋内で走り回っている子供たちと隼人、シンさんの奥さんにも挨拶。 そしてギャラリー多数。 「おはようございます、早いですね」 「オウ、うまいものを食わせてくれるというのでな」 まだ早いですよ。 そうなのか? 俺は、深夜の大移動でまだ眠い。 ミノルは自分の部屋、シンさんは風呂に空いた穴で、家族をこっちへ呼び寄せた。 そして代わりに向こうにいるのは兵士だ。 魔族が関係している家に何者が入ったとしても、顔が立つということだ。 只ずっといる訳ではない、家に誰かしら残る冬休み、みんないなくなるとまずいと判断。だから二人は、普通に帰って、出勤する、それだけだ。 「熱いうちに丸めるぞ、手を洗って来い」 魔王様、頭に手ぬぐいかぶって奮闘中。 「あー、だめだよー」 「蛇になった!」 「遊んでないで、あーそれは食べる分だな」 子供たちに混ざって真っ白になる王様、いいのかね? 久しぶりの大人数での餅つきにハイテンションな子供たちプラスワン。 「ほらほら、父ちゃんたちはお仕事」 「えー」 「いくー」 「よし、兄ちゃんと行こう」 おせちの予約、飽きたころに迎えに来てくださいと、俺たちは仕事場へ向かった。 「すごーい、山だ」 「森ー」 ちょっと距離はあるけど、楽しそうで、まあいいか。 夜にはお飾りが出来上がり、各家庭に。 大掃除は順番になるが、俺んちは最後、ってまあ商品の運搬だけで、終われば穴を閉じることになる。 三十日、朝、まだ夜が明けきれない時間、俺たちは桜井さんを通じ、奈良へ。 シンさんの家族とミノルは始発で大阪、鶴橋へ行くことにした。 俺はレンタカーを借り、野菜中心に、大和郡山の市場へと向かった。 時間が短いからな、俺だけは先に帰らなきゃいけない、店は、姉ちゃん中心に残っている人が準備をしてくれる。 さすが和歌山が近いのと、海なし県だが、海はさほど遠くないといったところで鮮魚も多い。 向こうのチームは肉を仕入れてくることになっている、関西の肉、いいのがありそうだ。 俺は、軽トラックいっぱい、野菜、果物、この時期欠かせない、ミカンなんかをたくさん買った。 そして、桜井さんに指示された場所にナビで向かうのだが。 いいのか?山奥に入ってきたぞ? 民家の立ち並ぶ街中ではない、一応、ついたが、ここでいいのか? カサっと音がして振り向いた。 鹿が堂々歩いてくる。 「桜井さん?」 「なんかええもんあったか?」 鹿がしゃべるとかなり、圧倒される。 車を叩くと、「ほな、いこか」、と竹でできた壁のような場所をさした。 俺は、トマトの箱を抱え、その壁に向かっていった。 大丈夫だろうな? 「おかえりなさい」 「おかえり」 みんなの顔を見たら、ホッとした。 「ただいま、荷物入れるから手伝って」 車を返し、奈良公園へとやってきた。 くんと引っ張られるが、ただの鹿、それに桜井さんと聞いている俺の間抜けな感じ。 「なにしとん、こっち」 その声に着いて行くが、どれも同じだよな。 東大寺の仁王門に圧倒され、こっちや。といいながらついてきたのは人が来ない、裏の道のような場所。 「ここや」 「ありがとうございます」 「時間になったらちゃんと送り届けるさかい、気にせんでええ」 「それじゃあお願いします」 「オウ、おせち、三人前、頼むで」 「はい、お雑煮できなくてすみません、おもちも届けますんで」 「おおきに、ほなな」 壁ができた、回れ右、そこはいつもの魔王城だった。 夕方、荷物をいっぱい持った人たちが帰ってきた。 これで正月七日まで、籠城できるなと笑って言ったのだった。 日が落ちた。 「変わりないか?」 「オウ、別に」 「そうか…」 「なにか?」 「いや?」 家に明かりがついた。 子供二人は冬休み、家から出ることもない。 ミノルの母親の部屋も明かりがついた、大掃除以外変わりなく。 シンさんの家。 留守番の子供二人は出てくることはなく、パートの母親が帰った。 休みの兄も出かけていたのか今帰ってきた。 その下の娘は今駅から歩いているところ。 変わりはない。 「ヒロム、特別室、酒たりないぞ」 「はい、蟒蛇かよ」 「足りるか?」 「十分だと思いますがたりなきゃ明日何とかします」 「キャー」 と歓声を上げ、かわいいワンピース姿の女の子が二人走っていきます。 「コラはしらないでー」 と追いかけるのは隼人。 もう大変。 「失礼します、お酒です」 「オー来た、来た、こっち、こっち」 もう出来上がってんじゃんよ。 オヤジどもは一升瓶で大盛り上がり、弟さん撃沈で、テーブルに伏せてます。 「もう、あっちの酒飲んだらうちの酒蔵のなんか飲めないって、なあ。」 「は、ありがたきしあわせ」 背中バンバン叩かれるし。つまみは、いつの間にか、サキイカに柿の種?あーあ、パーティ用のポテチが―。 女性たちは? 秋姉とどこかに行ったというのです。 察しが付く、どうせ、風呂だ。魔王様に作ってもらったサウナ付きの風呂だ、絶対。 魔王様の親戚たちが来られ、そりゃもうどんちゃん騒ぎ、明日はどうなる事やら。
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