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第十二話
三十一日。
朝八時。
家の前に運送会社のでかいトラックが付いた。
はー、なんだあれ?
「中に入ったら右側においてください」
「奥からでいいですか?」
「はい、おねがいします」
荷物にしちゃ多いな?
見てるかな?
俺は箱を一つ開け、中に入っている風呂敷包みを見た。
ン?段ボールに何か書いてあるな、ああ、おせちか、すげー数だな。
ハンコを押して、彼も中へ入って行きました。
ふあー、今日も暇かな?
「暇なのは今だけだ、ちゃんと準備しておけ」
横に立った女性は黒のミニスカートの上にピンクのワンピースを重ね着。黒のロングブーツはヒールの高い物、腰に手を当て見ているのはそのトラック。
はーい、向こうは?
「ふっ、張り切ってるよ」
「だまされてるとも知らないで?」
「いい身分だよ」
「どうせ殺されちゃいに行くんだしー」
「気を抜くな?魔王は何をしかけるかわからないからね」
「まさか、親父が生きてるなんて思っちゃいないだろうな」くすくすと笑うヤンキーのような男。
「生きてる方が都合がいいんだ、しっかり見張ってな」
「ハーイ、ママ」
「ツクヨミ、待ってろよ」
お支度はできましたか?とサングラスに黒スーツの男が言う。
「ああ、金も出来たし、後は向こうの国がドンパチやってくれればそれだけ俺の懐が膨らむんだ」
「黙ってここにいりゃいいのに?」
「は?」
「むこうに戻ってどうするんです?ゼウスを倒してどうするんです?」
「どうするって?」
サングラスの男は顔を近づけこういった。
「バカな奴、二百年の間に何が起きたのか知らねえの?」
「どういう事だ?」
「いいよ、知らないのなら」
「なんだと!」
「魔力までとられて、それでもここまで生きてこられた、それに感謝しろって言ってんの?」
「は?長生きが何の意味があると言うか?笑止千万、神の国に生まれたからこその長寿、短命のこの世界で、延命を望むものにそれを分けあたえただけで、この手に余るほどの金銀財宝を出来るのだぞ。ゼウスを殺す、簡単に殺すか?その命すべて使い切り、この星の皆が我に触れ伏す、それを目にしたいだけだ!」
「なさけない」
「なにがだ」
「ケツの穴がちいせーって言ってんだよ、やっぱりお前死ね」
「さっきからお前は、なんだその態度」
「別に~、騙されてるのがわからない、バカなお坊ちゃんに教えてあげてるんだ、死んだらその金はどこへ行くんでしょう?」
「我が死ぬのといのか?ハハハ、殺されても死なぬは!」
「その命、だれが握っているか忘れてはいませんよね?」
「は?どういうことだ?」
「ほら、怒りで忘れてる、アンタの命は、黄泉の国、月詠様が握ってるの、握りしめられたれたら、グシャッて潰れて、終わり、ハイさよなら」
「…はー?」
「忘れたの?」
お前が監獄の星に送られたのは、黄泉様の大事な方を殺したから、そしてお前の命は黄泉様が握っている。
「俺は誰も殺してない」
「だよねー、でもそそのかしただろ?ロック愛人を、そしてできた子供を月詠さまの後釜にしようとした、ロックの息子と偽って」
「偽り?いや、あの女のは確かにロックの子供だと?」
「さて、おしゃべりはこれくらい、金は、ロックの愛人にも、その息子にも行かない、俺さまがいただく」
「ちょっと待て、お前がロックの息子ではないのか?」
「俺?さあ誰でしょう」
サングラスを外した。
「お前、まさか?」
「ここまでね、それじゃあ、おやすみ」
シューと何かをかけられた。
「あなたの身柄は、ゼウスの所へ送られるのだよ、私は楽しかったよ、この星のすべて、でもね、その役目、終わるんだー、お前が動かなきゃ、みんなが見逃してくれたんだよ、だってこの星は、次の監獄の星の候補なんだもの」
クククと男は笑いながら、その男をぐるぐる巻きにしたのでした。
今日は何してるんだ?と頭の上から声がした。
俺はおせちの受け渡しの様子がどうなのか覗きに来ただけなんだけどさ。
「お、おはよう、顔認識が面白くて、あそこにいるんだけど、魔王様、握手会になってるよ」
握手してくださいと若い娘が手を出した。
「ああ、ありがとう」
「魔王様。キャー」
「なんだ?」
「喜んでおられるのです、手を振ってみてください、歓声が上がりますよ」
手を振った。
ウヲ―という歓声が起きた。
「本当だ」
「もう、遊んでないで、次の方?」
「義人君たちがかわいそうに思えてきた」
「おーい、なにしてる」
「すみません」
「そばで来たぞ」「天ぷら上がったよ」
交換は何とかスムーズにいき、三千食のおせちは完売の運びとなった。
づかれたー。
魔王様スキップをしながら次は何かと、楽しんでおいでです。
「魔王様たちは?」
「さあ?」
「飯の時間だぞ?」
どこへ行った?
内線。ン?家?
「兄ちゃん大変、魔王様こっちご飯食べるって!」
マジか?
また内線。
「ミノルさんお母さん」
「はい、はい、うん、ハハハ、頼んだ」
電話を切ると、笑いながら、
テレビが楽しくて、向こうにいるそうだ、食事はちびたちと、お母さんと、シンさんの奥さんたちがしてくれるから気にするなとのこと、俺たちは店の方をすればいいと言われた。
あの狭い家にみんな行ったのかな?
いってないですよと子鬼が指さしたところには、子爵伯爵さまたちが、シンさんのラーメンを待っているお姿がありました。
十時半、閉店、なんだか緊張してきた。
片づけ、俺たちは段取り通り動き出す。
「えー?まだー」
「時間ですってー」
「隼人、録画しておけ」
「ラジャー」
「もう早く!」
魔王様を引っ張ります。
「それじゃあな」
「よいお年を」
「来年もお願いします」
俺は鍵をかけ、彼らは、足早に家に向かった。
「よいか」
「はい」
魔王様が指を鳴らすと、穴は、ただの壁になりました。
時計を見て、十二時十分前。
「時間です」
壁がゆがむと、そこから実が入ってきました。
「シンさんは?」
それがまだ。
「では、警護に入ります」
「お願いします」
実のあとに兵士が二人は入っていきました。
「おかしいな」
「もうついてていいころだぞ?」
「まさか人身事故とか?」
「間に合わねえよ」
まるでシンデレラ、十二時になったら、この穴さえも使えなくなります。
「はあ、はあ、くそ!」
カギをやっと開けると、顔が出ています。
「帰ってきた、早く、早く」
「すまん」
「では」
ぷしゅぅという音のがした。
「義理セーフ」
三人は座り込んでしまいました。
「人身事故?」
「正解、腹立つし、久しぶりに走った」
「ハハハ、よかった」
お城の鐘が鳴り始めました。
時間だな。
「ん?」
「どうかしたか?」
なんだ?この感じ?
女と若い男は、ヒロムの家の前に立ちました。
「なんかおかしい」
「なにがだい?」
「フフフ」
その笑い声に上を見上げた。
着流し姿の男が扇で顔を仰いでます。
真っ黒な長い髪が風に揺れてさらさらと音を奏でます。
「ツクヨミ!」
「よくもまあのこのことやってきたねー」
や、やべ!
「逃げれないぞ」
「お前―?」
「見張りの子じゃないか?どういうことだい?」
「お前らの裏の裏をかいたのさ、ハレルは預かった」
「はーあー?」
シュタッと屋根から降りてきた人。
「お前らは、ここで息絶えるんだ、残念だったねー、お坊ちゃんが身代わりになれなくて」
「ハン、十二時を回ったんだ、お前らの力はもうない、こっちが上だ、ツクヨミ、覚悟しろ」
「なにを馬鹿なことをおおいいかね、十二時?まだ十分もあるじゃないか?」
は?
スマホを出してあたふたしています。
「魔王の力は偉大だねー」
「お前、魔王が嫌いではなかったのか?」
「嫌い?まあ、好きか嫌いかと言われれば好きではないが、あいつはかわいいところがあってな、私を慕っているのだよ、かわいいだろ?」
「なにがかわいいだ」
可愛いではないか、そんな子がわれのためにうこうして機会を与えてくれたのだ。
機会だと?何のことだ?
「おや、忘れちまったかい?」
「ああ、忘れたね」
「そうかい、私もね、忘れてたんだ、だがお前が動いてくれたおかげで全部思い出したんだ!ハレルをそそのかし、私の代わり死んだ、愛するものを、だからこそ出てきたのさ、魔王はただ一人、それを覚えていてくれたんだ」
「何が愛するものだ、お前をほおむれば私の息子が後釜さ!」
女はピストルを出し、頭目掛け打ちました。
「私を殺し、その座に息子をおこうなんて、片腹痛い。あいつなんぞに、私のあとは継がせない、だからお前も葬った。おとなしくしておれば、もっと楽しめたのにのー」
「どういうことだ?ロックの弟はここにいるじゃないか?」
「いますよー、彼は私の忠実なしもべ、お前らのことは全部耳に入っていたのさ」
サングラスを外した男。
「よくもまあ俺をだましてくれたな?それに息子だと?フン、どう見ても、俺には似てないよな?」
「お前は、ロック?」
「え?あ?い、いつから!」
「さあ、それをお前らに言う通りはない」
月詠の笑う顔が急に真顔になった。
パチンと扇を閉め、二人をさした。
「死に絶えろ、永遠にな」
「ツクヨ」
「マ」
二人は声も上げることなく闇へと消えた。
パラパラと音を立て広げた扇。
「我を倒そう何ぞ、百年早いわ」
「ツクヨミ様ー」
男は膝をつきました。
「偉い、大変な目に合わせたな、帰ろうか?」
「はい、ですが、あのお方はあれでいいのですか?」
「いいのさ、二百年、反省さえもしなかった、ばかな弟の最後は、姉がちゃんと取る、まいろう」
「はっ」
ゴーン。
除夜のかね、何百年ぶりに聞いたな、あいつのお陰か?
「ハハハ、魔王のとぼけた顔でもみに行ってくるか、ハハハ」
年が明けて、元旦。
「あけましておめでとうございます!」
「なにがめでたいんだか」
「王様!」
「もう、挨拶ですよ」
「あれがあいさつか?我の顔を見ると、まるで何かのように手を出してくるこあっぱども、あれはいかん、あの風習はこの国では御法度にしなければ」
「お年玉ぐらいいじゃないですか?」
「あれはお前らの国でやれ、それより朝飯はまだか?朝から飲む酒を出せ!」
はいはい。今年もよろしくお願いします。
その後俺たちは無事日本へもどってきた。
俺たちの一生は、その後、それなりの波風は立った者の幸せだったと最後に言い残せるほど、有意義なものだった。
魔王様、貴方に拾ってもらって私は幸せでした。
そんな年月を過ごし幾年月が立った。
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