第二話

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第二話

ヒュっと、耳をかすめる音ともに、来たのは見たことのない場所。 薄暗く、まるで牢獄?石の壁? 何が起きたかわからない、一瞬のことで、指がスローモーションのように音を立てたと思ったらこの有様。 「ここは?」 「われの屋敷、魔王城と下のものはいっておるがな?」 男は、階段状になった場所へと登って行く、大きな椅子が一脚おかれている。 あれは窓か?俺は窓に駆け寄った。 外は真っ暗闇だ。 明かりが無い?東京じゃないのか? 「明日から我の食事を作れ」 「ちょっと待った!」 いくらなんでも、俺は向こうの世界の料理人、こっちの食材は使えるとしても、調味料なんかは向こうのものじゃないと困る。 「そうか、では先ほどの所と行き来できれば良いか?」 「え?あーそれはだめだ、あ、そうだ、俺の部屋、俺の所ならどうだ?」 「それでよいのか?」 うん、それならいいかも。 「では」 「ちょっと待って」 「またか?」 「厨房はどこだ?」 「厨房?」 「料理をするところだよ」 「そんなものはない」 「煮たきをするところぐらいあるだろ?」 「おーい、誰かおらんか?」 はーい! なにかがピューンと走ってきた。 「お呼びでしょうか魔王様」 まだ動き回っているのは足元で回るコマのよう。 「厨房はあるのか?」 「は?」 「飯を作る場所だ」 「は、一応ございますが」 「あないせ」 「魔王様をですか?」 はようせ。 はい! こちらです。 石造りの建物、城というだけあって大きいが、なんだか埃っぽい。 「こちらです」 ドアを開けた。 「は?」 なんだこれ? だだっ広い部屋、中央には木の燃えカス。その上からは鎖が垂れ下がっていて、それを上げ下げするものだろうか、滑車の様な物が脇にある。 おい、おい! 「水はそこから出てます」 出てますって、流し台もない、上から筒が出ていて水がちょろちょろと出っぱなし? 「ここでどうやって食事を作っていたんだ?」 「食事?なんですか?ここでは肉を焼くところで、魔王様にはそれしか差し上げません?」 なんだか馬鹿にされているようで、わなわなと怒りだけがこみあげてくる。 「帰る!」 「は、ちょっと待て」 「俺はあんたの食事を作れとは言われたが、ここまで馬鹿にされる筋合いはない、それに、ただ働きもお断りだ!」 「対価がほしいのか?」 「当たり前だろ?さっき食わせたのだって、ただじゃねえからな、あれだけ飲んで食ったら二万はもらわねえとわりが合わねえよ」 「二万とはお前の世界の対価か?」 お金といって、俺の世界では、そういうものでやり取りをしている話をした。 「知っておるか?」 「さあ、お前、どこの世界から来た?」 「どこって、地球っていう星の日本という国だ」 「地球、又遠い星じゃないでしょうねー・・・?太陽系?ウソー、めちゃくちゃ遠いでしょ、誰かいないかな?」 やっと動きを止めたのは、小さな小人のような、狐のような人のような動物のような、人にしておこう、彼は、小さな鞄から不釣り合いな大きな本を出し、パラパラとめくっていった。 「おお、結構いるな、日本?ないぞ?」 「ないわけが、アーえーと、JAPANジャパンはあるか?」 「おーある、ある、京都か?」 「いや、東京だ」 「ないな、京都、奈良、島根、鳥取にいますね」 「呼び出せ」 「はい、では」 その小さい人は、両手を前に、広げるとぐるぐる動かし始めた。 目の前の石の壁がぐにゃりと曲がると、中に渦が出来た。 パカパカとヒズメの音がしたと思ったらみたことのある動物が顔を出した。 ヒーン!ブルブル。 おい、おい、鹿がそんな泣き声かよ? 「お?珍しいのがおる?」 シカだよな? 「久しいな、元気でおったか?」 「ふん、一千年ぶりか、鹿の王」 鹿の王? 「魔王はんですか、じゃあここは魔国?イヤー久しいなー」 「それはいい、魔王様は、この男を雇おうとなさっている、だがこやつ対価をよこせと言ってきた、金はわかるか?」 「ああ、そりゃー、魔王はん、そいつ、人間ですぜ、いいんですか?」 「使い物になるのは高々五十年ほどだろ、かまわぬ、これをやったらお前のところで換金できるか?」 ポンと投げたものをヒズメでキャッチ、首を下に向け、片目で見る鹿。 「おー、できます、金は今高値だから、これなら数万にはなります」 「数万か?」 は、はい? 「それでいくらになるか、日本の金というのに換えてきてくれぬか」 「え?は、はー」 「そう急にな」という、小人。 「わかりました」と言って咥えると壁に消えていく鹿を見た。 し、鹿がしゃべっていた。 「それで、お前の部屋とつなげればよいのか?」 「その前に」 俺はさっきいた場所にあったものすべてをここに運び込みたい話をした。獣もそのままだし。 「かまわぬがそれでよいのか?」 それだけじゃない、電気はあるのか? 電気とは何だ? この明かりをつけるものだ。 「明かりは魔法だ」という魔王はいつの間にか階段に座っていた。 電気とやらは、おぬしの部屋から持ってこれないのか?という小人。を呼んでいると、何かを出した、爪とぎかよ。 引けると思うけど、金が要るからな。 「また金か?」 「それで動いてるんだ仕方がねえだろ?」 それだけか?フッ。 「今のところはな、後はおいおい考えるよ」 「では、契約だな」 パチンと指を鳴らすとさっきの店のものがそのまま、って、エ~部屋ごと? まあいいか、どうせ、改装するんだろうし、何もない方がいいだろうしな。 「さて、お前の部屋だが、ここでよいか?」 エーイもうやけだ。 「はい、魔王様がよろしいのであれば」 「ではヒロム、お前の部屋とつなげるぞ」 魔王は立ち上がり、俺の方へ来ると、俺の頭に手を置き、壁に手をやると、そこには。 「どこでもドアかよ」 「なんだそれは?」 「いいえ、えーと、鍵を」 目の前の壁に現れたのは、俺んちの家の扉。純和風のサッシの引き戸。 ポケットから鍵を出し差し込んだ。 ガタガタ言わせながらカギを開け、カラカラと音を立て開いた。 「まじ?あー部屋土禁!えー、でも玄関、外にどうやって出るんだよ?」 魔王はブーツのまま勝手に上がって行くし、俺は振り返りながら、どうしようとおろおろ。 「まったく、ではこの辺でよいか?」 魔王は、玄関から上がった先の階段の下にある納戸代わりにしている押入れのふすまに手をかけた。 「ああ、ハイそこでお願いします」 俺の後ろから声がした。 「ただいま、兄ちゃん、なにしてんだよ!」 振り返った。 玄関の外に思わず駆け寄った。 「ウオー、元の場所だ」 俺の家、所沢。 「何言ってんだ、それよりあの人誰?」 「魔王様だ」 「へーって、なに寝ぼけてんだよ!」と一人乗り突っ込み。 「何、玄関で騒いでんだよ、ウッセーな、ワオ、コスプレ?」 もう一人帰ってきた。 「なんだこ奴らは?」 俺のおいっこ、今来た方、こいつは兄の高橋義人(よしと)、そっちは次男、隼人(はやと)。 「こんばんわ」 「スゲー、これもの本物の翼かよ」 「すみません、両親がいないので」 「我には関係ない、これでいいのか?」 「は、はい」 「では、一度向こうへ戻りましょうか」 「うわー、小人!」 「まじか!」 パシン。 「閉めた」 「押し入れに入っていったよ?」 「ど○○もんかよ?」 開けてみる? お、おう。 あ、兄ちゃんがいる。 本当だな? 魔王は俺の店の椅子に腰を掛け、長い足を組んだ。 「では、食事の時間はいつがいいのでしょうか?」 「時間だと?」 少なくても、朝昼版の三食ですが。 「そんな時間など気にせず好きな時に食べるだろうが」 それですと食材がダメになります、ああそうか、俺がここで食堂を開いたらどうですか?それなら魔王様は食べたいときにきて食べることができますよね? ゴンゴンゴン。 「入れ」 壁からぬっと顔が出て来た。さっきの鹿。 「これがこいつの国の金と言う物です、九種類で、こちらの紙が一番単価が高いものです」 「ほう、にまんとやらわ?」 「この一番単価の高いもの二枚です」 「あのー、すみません」 あー?といやそうな顔を向けた鹿。 こちらの世界の時間の概念は? 「そうだ、時間?朝昼晩とは何だ?」 めんどくさそうに話し始める。 時間は、一日を二十四で割ります。朝は魔王様が寝ている時間、昼は起きてくる頃、晩は一番活発な時間です。 「だそうだ」 だそうだと言われても今何時だよ? 「日本と同じでいい」という鹿。 いいんですか? こことつながった時点で、日本時間なんだそうだ。 じゃあ、さっきのが昼めしかよ。 魔王はにやにや笑いながらあの肉を食わせろと指差した。 猪の化け物。 俺は、小人さんに、肉を解体できる人はいるか尋ねた。 んーという人に皮だけでもはいでくれる人がいないか尋ねたんだ。 「お前、料理人だろ?皮ぐらいハゲねえのか?」と鹿さんです。 やったことがない。 ジビエ料理とかするだろうと言われたが、居酒屋でそこまでしたことはない。 フーンという鹿は、何かを見ています。 「あいつらとやればいいんじゃねえの?」 蹄で指したところからのぞくのはおいっこたち。 魔王は全く面倒だなと言っています。 「あの、毛皮とかは売れないんですか?買ってくれる種族はいないのでしょうか?」 おおそうだ、そういうのはいないのか? しばしお待ちをと言って調べ始める。 「いい肉だ、牡丹鍋もいいな」と鹿さん 「この大きさならスペアリブも行けますね」 「ほう?おい」 はい? 魔王のおこぼれ、少し回せという。 俺はこの世界とのつなぎをしてくれるのならと答えました。 フッと拭きだすと小声でこういいました。 「奈良の春日大社にいる、桜井春光だ」 「河野ヒロムと言います、埼玉の所沢にいます。よろしくお願いします」 魔王の胃袋を掴むつもりか? そのつもりですと答えると、鹿は二ッと笑った。 「なんと!」 声をあげた小人は手を叩きます。 ドアから顔を出したのは、鬼?背の高い順に並んでいる。 一番背が低く太っている赤、中肉中背の青、細く背が高い緑。つの一本、Тシャツに短パン姿。 「なんだこいつらは、いつも我の肉を焼く小童どもではないか?」 「お前たち、スピンドルボアの毛皮の部分をやるから綺麗にはがすことができるか?肉は魔王様のものだ」 うん、うんと頷く三人。 「エ~と頭もいいです」 そう言うとにこっと笑った、なんだかかわいい。 「だそうだ、出来るか?」 うん、うん、言ってます。 彼等は、一度部屋から出ると、道具を持ってきました。 まるで大工道具。 緑鬼はきょろきょろ。 「何かするの?」 大きな鍋を指さしました。 「お湯を沸かすのか?」 うん、うんいいます。 寸胴に水を入れ、火をつけました。 垂れ流しの水、仕方ないから寸胴をもう一つ水の下に置いた。 つ、つかねえ。 「あ、義人、ガスボンベ!」 「え?あ、うん」 二人は家の中へ。 いつの間にか、カラカラという音に振り返ると、鎖につるされた猪。二匹の鬼は、首を切り落とし血抜きをしています。 流れる血。思わず駆け寄りましたが、どこかへ流れていくようでほっとした。って、ここは食堂なのに―! 「靴履けよ」 「サンダルでいいよ」 甥たちの声。二人は、家庭用プロパンガスの半分の大きさのを持ってきました。 ついているホースを変え、元栓を開けると、プンとガスの匂い。 ライターを出し、コックをひねると火が付いた。 そこに鍋を置いた。 二人は、窓から外を見ている、真っ暗で見えないという。 鬼は、血が流れる頭をもっていこうとしている。 「おい、おい、汚れる、今袋を出すから、それに入れてくれ」 一番大きなビニル袋を広げ、それに入れてやった。 「でけー!」 「こんなの日本じゃ無理だよね」 「当たり前だろ?」 それに二人が振り返った。 「鹿がしゃべった!」 「かぶりもんじゃねえよな?」 手を伸ばし触ろうとする二人。 「く、くるんじゃねえ!」 じりじりと下がる鹿。 「お前ら、そこの壊れた椅子とかテーブル粗大ゴミに出すぞ」 「えー」 「エ~エーいうな、それと、今からメモする野菜買ってきてくれ、後ポン酢とかもな」 はーい。 腹へったな。 飯まだか? まだだよ。 さっき帰って来たし。 そうだな。 ねえ兄ちゃん、魔王って何する人? さあな? 兄貴、それより仕事は? ああ、追い出されちまった。 やっぱりなー、家賃高いんだからさー、前の所でよかったのにー。 どっちにしてもダメだよな、コロナには勝てない。と隼人。 「すまん」 俺は中学出れればいい。 そんなわけいくか? 「俺もバイト増やそうかな?」 「やめてくれ、お前の方こそ就職決まったんだ高校卒業してくれ」 「うす」
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