第三話

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第三話

 なんだかんだやっていると、猪の皮が半分はがれて、床の上で湯気を出している。 「お湯をかけたのか?」 「油を溶かしたみたいやな」 へー?綺麗に皮がむけていくのを腕を組みながら見ている。 あの? ん? 戻らなくていいんですか?と鹿に尋ねた。 喰わせてくれるんだろ?ああそうか。 鬼たちは集まってきた、カン高い子供のような声で、後は任せると言ったのだ。 よし、ここからなら。俺は牛刀と呼ばれるでっかい包丁を手に、肉を塊で切り分け始めた。 まずはスペアリブだな。 オーブン、うわー。これもガスだ。えーと、ホースがどこかにあったな。 レンジ、電気、延長コ-ド! 「兄ちゃん買ってきた」 「悪い、野菜、鍋用に切ってくれ、後大根おろしな」 「ジャーン!ポン酢に大根おろし入っている」 「でかした、えーと、一番デカい土鍋、カセットコンロだな」 甥っ子たちに準備を手伝ってもらいながら俺は肉の解体だ。  電気というのはなんてありがたい物なのだろうと、ない所に行くとしみじみ思うよなーと、初めての経験にも対応している俺ってすごくない?なんて思いながらも手を動かした。 チン! オーブンの予熱が出来た。 猪の脇腹、肉の塊にフォークで穴を刺す、ニンニクしょうが、塩コショウ、ハーブを少し、揉み込み、塊ごとオーブンへ、220度で二十分から三十分途中一度ひっくり返す。それから250度にして十分、焦げ付きそうならアルミホイルをかぶせる。 「よし、それとこれは、刺身だな」 心臓とレバーは生でも行けそうなくらい新鮮だった。 刺身にしよう。 魔王だ、腹は壊さないだろうけどな。 レバーはしっかり洗い、牛乳に少しつけておく。 心臓は、お湯でさっと湯がいて薄く切る。 そして、ブロックに切った肉を薄切りにしていく。 本当は冷蔵庫に入れて、油を冷やせば、機械で薄く切ることができるんだけどな。あ、これも電気がいる。はあ。 「さて、俺たちは鍋をいただこうか、鹿さんはみんな食べてみます?」 「もう待ちきれないよー」 魔王様はこっちをじっと見ているだけだ。 では、まずは、テーブルをセットしましょうかね。 魔王の前にテーブルを二つ置き、テーブルクロスを広げた。 桜井さんに、居酒屋なのにテーブルクロスか?と聞かれたが、俺のおやじがフレンチだったからこんな物はいくらでもある話をした。 隼人がカトラリーと水を持ってきてくれた。 俺はカウンターからグラスに氷を入れ、酒のビンを持って来た。 鹿さんの方は義人が持って行ってくれた。 「では魔王様、これは魔王という私どもの国の酒です。おいれしてもよろしいですか?」 「うむ」 透明な酒がつがれていく。 くんくん、変わった匂いだな。 「焼酎と言って芋から作った酒です」 「芋か?」 サツマイモという甘い芋です。 ほう、と言って匂いを嗅いでは口にした。 「ん―これはなかなか」 「まずはお刺身です、こちらは心臓、こちらは肝臓です、このたれをつけお召し上がりください、千切りにした、ネギ、玉ねぎは、よければ肉で撒いてたれをつけてみてください」 「ほー、生か、これはいい…むぐっ、なんだこれは?」 フォークでさしてがつがつ食べてるよ。 「どうですか?」と鹿さんに聞いた。 「レバ刺しはごま油ににんにくと塩だけか、うまい、こっちは?」 心臓です、湯どうしして薄切りにしてあります、こっちはわさび醤油でどうぞ。 箸を使って、食べる人は着物姿の長い髪の御仁。 「…あんた誰?」 あーさっきまで鹿って云っただろ? ウソ、人間。 喰う時はこの方が楽なんだと言いました。 まあいいか。 魔物みたいだしな。魔物と魔物?共食いか?まあいい。 「おい、魔王は手に入らないんじゃないのか?」 「俺の所は契約してあるから、まだ在庫があるんです」 「おかわりいかがですか?」 「ああ、くれ、悪いが、ストレートはきつい、お湯割りがいいんだが」 かしこまりました。 魔王様はご自分で入れて飲まれてるからいいか? 「隼人、たっている人たちも席についてもらえ」 「はーい」 「いえ、いえ、我々は」 「いいじゃないですか、席は別ですから」 義人は、テーブルをくっつけ大きなテーブルにした。中央には一番デカイ土鍋をセット。 お二人の席にもカセットコンロを置き、魔王様には三人前用、桜井さんには一人用の鍋をセットした。 やっぱり、牡丹鍋は味噌でしょう。 三種類のみそをブレンド、赤みそが多めがいいな。 酒、砂糖を加え水で溶かしておく。 冷蔵庫、やべ、これも電気が消えてる、まあいいか、後でいいや。 中から出したのは、出汁。水出汁を作ってある、ポットに入れてあるものだ。 昆布と煮干しでいいな。 野菜を並べ、出汁を入れ、火をつけた。 「これは?」 「今から肉を煮ます、これらに火が入ってから、肉を入れますので、お酒、もうないか、呑んでお待ちください、今スペアリブをお持ちします」 「魔王、これもよいが、もう少し辛くてもいいな」と空のビンを持ち上げました。 「では、日本酒を、男山にしましょうか、辛口です」 俺はグラスに注いだものと肉を、持っていこうとした。 ちょっと待てよ?俺は大きな木の箱も持ったのだ。 「スペアリブです、どうぞかぶりついてお召し上がりください」 「これは変わったいれ物だな?」 升をしげしげと見ている。 「ますと言います、これにグラスの酒を開け、これは塩です、少し乗せて飲みます、まずはグラスから」 「ほー、これはいいな」 「では升の方を」 「ん?これは同じ酒か?」 同じです、変わっていいでしょう? 「んー、いいな、これ」 くつくつ言ってきたので、味噌を合わせたものを入れ、肉を入れます。 「肉の色が変わってきました、野菜もいいので、お取りします」 取り皿に入れ渡すと、また小さい入れ物、というので、どんぶりを取りに行く、まずは味を見てくださいと言いながら。 「うんま!うまいぞ、ヒロム、これはいい、はよう、どんぶりを持ってこい」 魔王様は升が気に入ったのか、酒をついでは飲んでいる、一合升じゃないからな、米を計る一升ます、酒も減るの早そうだわ。 「どうぞ、後はお好きに入れてください」 「この白いのはなんだ?」 「うどんと言います、これは最後、残ったつゆに入れます」 「今はダメなのか?」 「最後の方がおいしいんです」 そうか、と言って、お玉ですくい上げ、肉をゴサッと入れ始めたよ、まあいいか。桜井さんの方を見に行くと、彼は自分ですると勝手にやっていた。 甥たちの方は、まあいいか楽しそうだし。笑い声が聞こえている。 「ヒロム、終わるぞ」 「はい」 魔王様の土鍋に、追加で入れたのは練りごま。 「辛いのは大丈夫ですか?」 「辛いとはどういうものだ?」 ああそうか、では少しだけ、ホワジャンという、食べるラー油を入れ、うどんを入れた。 「どうぞ、〆のゴマうどんです」 「嗅いだことのない香りだがいいな」 ずる、ずるるる―――! ん―――!脳天を突き抜けた、これがうまさか? 「美味い!」 桜井さんも頼むと言っています。 「これ、見たことあるビンだな」 今、ハマってる調味料です。 へー、少し辛めがいいな。 かしこまりました。 彼も満足と言っています。 「兄ちゃんデザート食ってもいい?」 「食ってもいいけど、腹いっぱいじゃないのか?」 別腹と言って、電気の付いていない冷蔵庫を開け、停電かと言っているバカな末っ子。 「ヒロム、それはなんだ?」 ああ、これはゼリーというもので、果物の果汁を固めたものです。 「我にも出せ」 はいはい。桜井さんは? 私はもういい。 他の人は? 鬼さんたちが手を挙げた。 「またか、ヒロム、もっと大きな器にしろ」 「かしこまりました」 「ん?だがこれはこれでいいな」 ですよね。 「さて、では魔王様、私はこれで」 「帰るのか?」 また来ます、換金しなくてはいけませんしね。 「一日、先ほどの金ひとつでやって行けるか?」と魔王様です。 「はい、他の方からは、別料金をいただいても構いませんか?」 「ああ、かまわん、では、明日から頼んだぞ」 「はい、ありがとうございます」 「魔王様、下着はどうされましたか?」 コソコソ云うも聞こえている、下着? 「大丈夫だ、落ちてきたのを持っている」 エーと大きな声に振り向いた。なんで履かれないのですか?その時間がなかったのだという魔王様。 魔王は出ていった。 ノーパンか?あの頭に落ちてきたもの、ククク、パンツかよ。 桜井さんもまた食いに来ると言って、魔王の残した金を全部おれにくれた。 「今度は別料金ですよ」 「それでも安くしろよな」 と彼は人間の恰好で壁の中へと帰って行かれた。 ここから奈良に行けるのかな? 「さて、皆さんのお名前を伺ってもよろしいですか?」 小人さんは、魔王につかえるジュピター、木星? 「私がお仕えするのは、七日のうちの木曜だけで、他の日は担当者が別に居ります」 その日以外は何をしているの? やることは多くて、城のお金の管理、魔物たちの管理。 「ほかの国の王様達の連携などもとりませんと」 「え?彼は魔王だよね、他に王様がいるってどういうこと?」 そうですね、わかりやすく言いますと、この星は、魔族の星です。 魔王ゲイドさまと弟君、魔王ローレンス様は、別の領土を統治しています。 兄である、ゲイド様の方が格が上になられるので、他の星にいる魔族たちも兄であるゲイド様の管轄になります。 そのほかに神族がいる星、黄泉族のいる星があり、この三属が、この世界の頂点に君臨して、均衡を取っているのだそうだ。太陽系など小さくて、人間は、この世の生物で最も下等な生き物として分類されるそうです。 「エー、動物の方がしたじゃないの?」 「動物は別になる、こうして、言葉で理解できるのは、少ないからね」 そうなんだ。 鬼っこたちは? 赤はメメ、青はリリ、緑はレレと言った。 青の子は、よく見ると女の子に見えるな。同じ格好で男にも見えるが? 魔王様の食事の世話は長いの? 長いのか短いのかわからないけど、ずっとやって来たそうだ。 三人だけ? もう一人いると言う、今日は休みだそうだ。 ローテーションを組んでいるようだな。 そうだ、君たち、今まで通り魔王様の食事の手伝いをしてくれないか? 三人は顔を見回せるとこういいました。 魔王様と同じ食事ができるのかと。 全部じゃないよ、さっきも三種類のうちの一つだっただろ? うん、うんいう。 もし明日から手伝ってくれるなら、食事はだすよ、明日の朝は、さっきのスペアリブもたべられるよ? それに少し笑った。 それともう一つ、今日のように肉があったらまた頼みたいのだけど出来るかな? 彼らは素材をくれるのなら喜んでと言っていた。 彼らにこの城で働いている人の食事はどうしているの? そう聞くと、ここでの食事は魔王様だけで、みんなはそれぞれ、帰って食べたり、森で狩りをして腹を満たして帰って来るだけだと言うのだ。 じゃあ、俺がここで食堂をしたら、来てくれるかな? 「それはもう」 鬼っこたちも広めると言ってくれた。 じゃあ大丈夫かな? あ、そうだ、時間は?大丈夫かな? 彼らは首を傾けた。 「ちょっと待ってて」 俺は家にある目ざまし時計をかき集めた、どれも違うな、んー。明日そろえるか? 戻ってきて、三人のうち、誰に預けたらいいか尋ねると、青鬼君。じゃないなちゃんかな? 数字はわかる? うんと言った。 デジタル時計を出した。今、時計は、二十二時。これが進むと、二十四でゼロになる。 うん、うんという。 これが十一になったらここに来ることはできるかな? できるか? やってみないと? やっぱり女の子の声。まあいい。 「よし、それじゃあお願いするよ」 うん、うんと言って帰って行った。 「あのー?」 ああ、ジュピターさん。 「私もお願いがあるのです」 なんでしょう? ここにつける時計があると聞いています、お願いできますか? 腕を指している。 「腕時計ですね、準備しましょう、ですが明日はどうしたらよろしいですか?」 「ここへ来れば何か食べることが出来るのですよね、その時にで構いません」 「わかりました、ではこれからもよろしくお願いします」 「こちらこそ、楽しみにしています、アーそれと、私は魔王様と違って、小さいので十分です」 かしこまりました。 「では、明日は、ヴィーナスです、お休みなさい」 「おやすみなさい」 さてと片付けるか! ん?あれ?食器が無い。 「にいちゃん」 「兄貴、流し、水でないよ」 まじか、そうださっきの水、壁から筒だけが出た下には、大きな寸胴から水があふれていたのだった。 家に運んだと言う二人。ありがとう。 やっていけそう? 魔王に食われないように頑張るよ。 だね。 俺は魔王のお抱え料理人となったのだった。
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