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第五話
そして、やっと慣れ始め、これから稼ぎ時の年末へとはいろうとしていた時。二週間目、危惧していたことが起きた。
桜井さんが血相を変えやってきたのは金が換金できなくなったと言う事だ。
俺はまあ何とかお金の方はありがたいかな黒字で行けているのでまだ間に合う話をすると彼も何とかやってみると言っていたのだが。
それから一週間。
俺はミーティングも兼ね、休憩時間中に魔王様がお出かけという事もあって、七人衆にも集まってもらって、今後の事について話し合いをする事にしたのだ。
一つは、換金の件だ。
「困った、非常に困った」
「金で買い物ができればいいのにな?」
こっちの世界で手に入るものはほとんどない、農家や畑をするという概念が無いのだ。
魚を取り、森で木の実を取って食べる、肉はたまに手に入ればいいそうだ、まるで、原始人の世界。
食事もカトラリーはあるが手づかみの方が多いようだ。
ただこれは一般人、貴族はある程度の知識があるそうだ、魔王様もその辺に食べ散らかしてはいなかっただろうと言う、まあナプキンで口を拭いていたしな。
桜井さんにも来ていただいた。今はだましだまし、つなぎのある人物に頼んでいるのだが、日本で金が取れる訳もないから、犯罪に加担しているんじゃないかと言われてさ。
どうにかなりませんか?
んーという人たち。
彼らの前には、紅茶とお茶菓子を用意した、甘いものは女性に人気だし、これだけを食べに来る人もいるほどだ。
「こればかりは魔王様がいる時の方がいいでしょうね」
「そうだな」
「では先に、苦情の方から」
「城の外からも人が来るので、王宮の前は混雑してます、その緩和をしてほしいのですが」
「入り口を別に作ってもよいのでしょうか?」
「どうだ、ネプラス」
「構いませんよ?ヒロムさんのほうでしてくださるのであれば私たちはかまいません」
日曜担当のネプラスさん(男)が、七人のまとめ役、一番の年長者で魔王様の進言も一番できるそうだ。そして土曜、ゼタン(男)金、ヴィーナス(女)、木、ジュピター(男)水マーキュリー(男)火マーズ(女で一番の年長者)月コメット(女最年少)となる。
適当にと言う訳にはいかないので、場所の指定、食堂から出入りできる場所を指示してくれればありがたい。
「わかりました、では早急に」
「それと御婦人方からなのだが、もう少し席を増やせないかと言われた」
「んー、結構この人数だと限界なんだよな」
「この、菓子とか、デザートとかというものを別に出す場所があればいいのよね」
今日のお菓子は、日本で買えるお菓子を袋から出させてもらった。
「ああ、サンドイッチとかも、簡単に食えるからな、そっちでもいいな」
「私は、サンドイッチや、パン類は手軽に食べれるので、持って行けたらいいのにと常々思っておるのです、ヒロム、その辺何とかできませんか?」
こりゃ、日本のいいとこどり全部作らないといけなくなってきたんじゃねえの?と耳元で言う桜井さんだ。
「何を雁首並べ悩んでおるのだ?」
そこに来られた魔王様は、またもや、狩りにおいでになっておられたのか、プーンと血の匂いがします。
「解体場へ置いて来たぞ」
ありがとうございます。
椅子を差し出す、七人衆。
どっかと椅子に座った魔王様。
「で、何をしておるのだ?」
桜井さんが、金の換金の話をし始めたのです。
「まったく面倒だな、金の元締めに誰かがなればいいのではないのか?」
そんな簡単にできるか?
「おい、お前の得意な検索とやらをすればいいではないか?」
あーそうか、ちょっとまっていてください。
ノートパソコンを持って来た。ワイハイ?持って来たよ、必要だからな。
それだけじゃない、必要な場所に内線電話を置かせてもらったよ。
桜井さんは隣でのぞいている。
「へー、税金を払えばいいのか?」
「そうみたいですね?」
「それなら、役場関係に当たってみる、年間で決まった量が仕入れできるとなれば、国もホコホコだろうしな」
すみません、お願いします。
任せとけと言われた。
「魔王様、何とかなりそうです」
「そうか」
いつの間にか魔王様の前にもお茶とお菓子が並びました。
少しお喜びのご様子。
建物の件、はオッケーをもらいました。
あとの事は、ここで何とかできないのかといった感じですので、検討させてもらいます。
そしてもう一つ、これは俺個人の問題。
「休みだと?」
「俺の代わりに、もう一人、いや、もう二人、お願いできませんでしょうか?」
「まったく、これだから人間は」
「でも、美味しかったでしょ?」
「んー、わかった、これからもはげめよ」
「ありがとうございます!」
子鬼たちも四人だけじゃ大変で、こっちも人間を雇うかどうしようか悩んでいる最中なんだ。
彼らにあと何人いたらいいと訊ねたら、三人はほしいと言う。
七人衆に、彼ら四人は肉の解体とかに回ってもらうと、外で動ける人がいなくなる話をした。
「朝と昼は、同じものだから、社員食堂みたいに、取ってくれればいいんだよな」
「いやー、あれは日本人だからできるんだ、俺たちはそこまでしようとはしない」
そうか、給仕があってこそ、お客様が来てくれると言う事なんだな。
何とかします、あの子達にも聞きますからと言ってくださった。
「今のところ、人の流れも変わり始めた、我が外に出なくても情報が入り始めてると聞くが、どうなのだ?」
魔王様の前に置かれたお菓子の皿が空になり、慌ててまた新しいのを置いた。
「はい、確かに、ヒロムの食事をとりたいがために、城の周りには、宿屋などが出来始めました、その分、土地の賃料が入り、城が潤ってきております」
「それに、今までは王様直々に顔をお出しになっていた貴族どもが、城へ来て話をして行くので、その分の時間に余裕が出来てまいりました」
「フン、その分、我は狩りに駆り出されていると言う事だな」
「申し訳ありません、魔王様の取ってくる肉は、最高級品ですので、その辺の猟人よりもいい物が手に入り、それはもう、頭が下がるしだいにございます」
「フン、口も達者になって来たな」
と言いながらお茶を飲まれました。
「まだ一か月ほどです、やっと慣れ始めたところですので、しっかり気を引き締めてかかりたいと思う所存です」
「まあ良い、後はお前達でどうにかしてくれ、そうだ、ヒロム、一つ頼みがある」
何でしょうか?
この世界にも新年を迎える日に、大勢の人が城へ来るそうだ。
そこで、彼の弟と親戚筋だけで晩餐会をしてみたいと言うのだ。
人数はいかほど?
そうだな、子供たちを入れて三十人ほどか?
お子さんですか?
お前の甥よりも小さいのがいたな?
「はい、五名ほど、ですが三十人と言いますと、ローレンス様、ハウシュビッツ公爵様ご家族、フィリル伯爵さまご家族、メーンテールド伯爵さまご夫婦、でしょうか?」というのは、ネプラスさんだ。
「そうだな」
「ですと、フィリル伯爵のご嫡男、第一子が婚姻されご家族が出来ましたので、三十二名になりますが」
三十二、それ以外にお付きの方々も来られますね?
「もちろんです」
「わかりました、これは皆さんと協議して、決まりました魔王様に報告させていただきますがいかがでしょうか?」
魔王はニヤニヤ笑いながら、かまわぬと言いました、試されているなと俺は思ったのです。
「だが、いつも言うが、もう少し大きくはならぬのか?」
とクッキーを見ていいます。魔王様はさほど大きくはありません、海外でも二メーターぐらいの方がいますよね、そんな感じです。
「魔王様以外で、大きい物を扱えるものが少ないので、我慢してください、食べたければ、いっぱい差しあげますからー」
それを聞いていた、女性陣がクスクス笑った。
「フン、執務室へ、お茶とロールケーキ、一本持ってまいれ」
「かしこまりました」
「後は頼むぞ」
「はっ!」
魔王様が出ていかれました。
「丸くなったなー」と言ったのは桜井さんです。
「あの魔王様が、私達に頼むなんて、雪でもふりますかね?」
「降るかもよー?」
「ああ、雪で思い出した、ここは、暖炉もないのに、あったかいよな?」
「それは、日本の科学の結晶だ、電気さえあれば、ほれ、そこの機械から、冬はあったかく、夏は涼しい風が出るんだよ」
「へー、どこにいてもあったかいんだよな、暖炉の前は、みんなが席をとるのにさ、食堂だけはないんだもん」
「まあ、これもヒロムの魔法ってとこか、さて、仕事に戻るぞ」
「今度は何時しますの?」
「晩さん会の事を決めませんと、一週間後でしたらいかがですか?」
「ああかまわない」
「わたくしもよろしいですわ」
「いいですよ」
「わたしも」
「いいでーす」
「では一週間後」
「場所はここで?」
「はい、皆さまよろしくお願いいたします」
桜井さんは、海外に持ち出すのはやばいから、何とかやってみると言ってくれました。
「そうだ、桜井さんは、おせちとかもちとか大丈夫ですか?」
「おう、今のは昔と違って豪華だからなー、俺は好きだよ、そうそう、お屠蘇おおめで、雑煮は関東のあっさり系がいい」
「ハハハ、任せてください」
じゃあな。
さて、そうなると、善は急げだな。
この世界へ来て数日のち、店のオーナーから、なにも無くなった店の中を見てびっくりしたと言われた。何もかも無くなっていて、別にいいのだが、そこまでやけになったのかと思ったそうだ。
俺は、解約もしたからもう終わりでいいですよねと、ありがとうございましたと電話口で言って、切った。
もうかかわりたくなかったからだ。
だがその後、同じビルで働いていた人たちからも、どうしたと言う話をいただき、久し振りに新宿へ出て飲んだのだった。
集まったのは、飲食店ばかり八人。
「飲食店をやめて、アミューズメントパークにするのか?」
「そうだってよ、俺ん所も立ち退き言って来た」
「俺の所もだ、それに家賃吊り上げられて、足元みられてたんだよ、くそっ!」
あのビルに入っていた飲み屋も次々出て言っているそうだ。
まじか?
「で、再就職か?」
「ん?まあな」
「いいよなー、若いって、俺はもうその気力もねえし、やめて田舎に帰っても、また一から出し、はー死んじまったほうが楽だよなー」
俺もそう思った。
でもこれから日本はもっと大変になるんだろうな?
俺たちはぬるま湯につかりすぎたのさ、また戦争の頃に逆戻りだ、竹ヤリ持って、俺たちの行く末はただ殺されるだけの兵士だよ。
そうなるのかね?
「なんのためにつらい修行して、自分の店を持って稼いできたんだか、わかりゃしねえ」みんなは自分の手のひらを見ていた。
俺は簡単に一緒にやらないかと言えなかったんだ。
修行した人もいる、大手のチェーン店で店を構えていたのもいた。
全てが、コロナで共倒れになって行く。
借金をするのもいた、従業員に頭を下げ、怒鳴られても歯を食いしばり、守ろうとした。
それがすべてなくなるのだ。
今から十日前、俺は一番仲のよかった二人を呼び出した。
ラーメン屋の坂下新さかしたしん、シンさんとよんでいる。イタリアンシェフ、大国実さん。同じ年だからミノルと呼び捨ての中。
シンさんはここで十五年もラーメン屋を営んでいた、四十五、奥さんも子供もいる。
そして大国さんは俺と同じ年で三十七才、彼もまた、コロナ前にここにうつってきた、オープン時はそれなりに賑わっていたのに、コロナとともに、それはおいつか無くなって行った。
俺たちは、ウー○イーツなどと契約していち早くデリバリーを始めた。
だがふたを開けて見れば、ここは商業地で、住んでいる人が少なくて、さほど収入には結びつかなかったんだ。
高い家賃を払うのが精いっぱいで、俺たちは店を構える代わりに一つの店でやろうかとも考えていた時期もあったんだけど、俺が先にダメになったんだ。
「なあ、いちどだけきてみないか?」
「働けるのか、料理が出来るのか?」
一応、俺の下になるけど、それでもいいのならお願いできないだろうか?
大国さんは一度見に行きたいと言ってくれた、でもシンさんは、見るだけで返事は、ゆっくりでもいいかと言ってきた。
俺はそれでいいと二人を魔王城へと案内することになるんだ。
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