第七話

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第七話

魔王と替え玉 「なぬ?今日は、向こうでとれというのか?」 はい、シンさんが是非にお願いしたいと申されまして。 「ふー、まあ良い、してどこに座ればよい」 「はい、あちらの、厨房が見える席だそうです」 ふむ。 「シン、ここでよいのか?」 「はい、すみません、うまいものを食ってもらうために、どうしてもここの方が塩梅がよくて」 「そうか、では、始めろ」 「へい」 「こちらが、とんこつラーメンになります」 普通の一人前、煮玉子と肉が三枚ほど乗っていますがこれで十分だ。 「やはりか?」 「最初は味見でさあ」 「そうだな、では」 ン?と声をあげると、ものすごい勢いで口に流し込んでいきます。 ドンブリを置くかおかないかのタイミングで、今度は大きなどんぶりを差し出しました。 「少ないな」 「これは、麺だけを食べていただけば、替え玉と言って、麺だけをお入れします」 「ふむ、そうか」 「よければ、これは、薬味です、味が変わりますので、試してみて下せえ」 「これは、ゴマだな、これは何だ?」 「高菜という漬物を炒めたものです」 「この赤いのは何だ?」 紅ショウガと言ってしょうがの漬物です。 まずは、高菜とゴマだな。 ン?と、また言ってずももーずるるーと食べてしまいました。 「替え玉!」 「へい」 二つの麺を入れました。 「肉はないのに、肉の味がすごいするな」 「スープにそれだけエキスが染み出ていますので、なくてもうまいはずです」 「すごい自信だな、では紅しょうがを」 プハ~、あ、スープまで飲んでしまった。 ではお代わりで。 たのむ。 麺をパシャンといい音を立て、湯切りしてはどんぶりに麺を入れていく姿は、さすがと言えます。 「はー、高菜をくれ、それと替え玉」 「へい」 「はー、そうか、この替え玉を入れる距離が近い方がいいのだな、そうか、ラーメンはこの席に限るのだな」 「その方がありがたく」 「豚骨と言ったが、まだ種類はあるのか?」 「はい、まだいろんなスープがありますが、ヒロムとは月に二回ほどがいいのではないかと相談しております」 「月二回か?」 ですが、その間に、鍋料理もございます、そのしめにラーメンもできるのもございますので。 「そうか、それは楽しみだ」 そのあともう一度替え玉を頼み、全部で11個もの麺を平らげていかれましたとさ。 イタリアン、こっちが譲らなかったか。 スプーンやフォークのない生活は、手でつかんで食べるだけのものだったからと彼には説明したのだが、案外細かい彼。 ドキドキで出した前菜に少ないと言われ、次に出したボロネーゼに少ないと言われ。 替え玉を頼むと言われ、切れた。 「はー、なんだか少ないの―、ヒロムは、でーんと出すんだがな?」 「ですが、一度に出しますと」 「そこなのだ、次のが遅い、全部並べろ」 くそー! でーんと出したのは大きなキッシュ皿、それにこぼれんばかりに熱々の物が出された。 「そうそう、これなのだ、ほほ―肉もいいではないか?」 ステーキ、これも焼いた物を数枚重ねだした。 「…あチー、はふ、はふ、あちち、なんだこれは?」 「ああ、グラタンと言いまして、中はとてーもあつくいので注意してくださいと言いそびれました、どうぞ、水です」 口の中がべろべろになったぞ。 大丈夫です、明日には治ります。 明日だと! 「肉、やめておきますか?」 「…食うよ、こっちを先に食う」小さな声と可愛いしぐさに。 ざま―見ろ、ぐっと、拳を握りしめたのは言うまでもなかった、彼は、勝ったと言いながら戻って来たそうな。 何とかローテーションを組んで、みんなが休めるようにしたのだが、この後やってくるクリスマスに、またひと騒動起きようとはこの時はまだ誰も気が付かないのだった。 十二月二十三日金曜日。 東京スカイツリーの上で、街を見下ろす一人の男。 ジングルベール、ジングルベール、ん、ん、んーん。ん? クン、クン…魔物の匂いがする。 どこだ? 男は立ちあがると、匂いのする方をみました。 あっちだ! 高いビルからビルへと飛び移る影。 羽田空港、ロビー。海外からの旅行者です。 ある家族。 「爺ちゃん、これかってもいい」 「帰りにしなさい、今来たばかりでしょ?」 「本当に、あっちへ行けるのですか?」 「ちゃんとした情報だ、はー何年ぶりの我が家だろう、さあ、早く行こう」 こちらは老夫婦。 「日本、初めてですね」 「外にでられてよかったよ」 「早く行きましょう、ひ孫の顔が見たいわ」 そしてこちらも家族のようです。 「めんどくさーい」 「日本は、まだマスクをしているのか?寒いからいいが」 「お姉ちゃ~ん何してるの?」 「うるさいわね、帰りに買うもののチェックよ」 「おーい、みんないるか?人数確認して」 何だ、なんだ、魔物の匂いで、空港の中くせー。 おい、おい、こんだけの数、なにしにここに来たんだよ? バスは貸し切りのようで、行き先には所沢と書かれています。 何台あるんだ? 連なるバスは行き先が皆同じようです。 五台かよ。 バスが発車します。 バスの上に乗って行きたいのですが、気がつかれたら厄介なので、後をつけることにします。 高速を降り、バスの列は所沢へと入って行きます。 西武線所沢駅が見えてきて、高いビルも見えてきたところで、バスは大きく右へ曲がります。 西武球場に行くんじゃないのか? 少し走ると、すぐにバスの列は止まり大渋滞です。 バスの運転手が出て、車を誘導します。 ホテルも旅館もありそうではありません、普通の民家が連なる場所です。 人々が下り始めました。 周りの人も何事かと足を止めてみています。 「ウエルカム、こちらです、いらっしゃいませ」 と言っているのは、人間だな、日本人の子供か? 彼の先導で、歩いていくのは、普通の日本民家、二階建て。 どうぞお入りください。と言っている。 ゾロゾロと中へ入って行く、なんだこれは? 人がいなくなり、その家の前に立った。 今じゃ表札もないから、ここが誰の家かなんてわからない、だがこの匂いは尋常じゃねえな。 何かねえかな? 玄関の脇に積まれた酒のビン、なんだ?この量は? 反対を見ると、この家の大きさからは考えられない、プロパンガスの本数。 ガスについていた紙を見た。 有限会社、居酒屋魔王? 「は?魔王?」 すると、遠くから、ガラガラと音がしてきたのに、身を隠した。 大きなカバンを引きずってくる、日本のギャル。 家の前で立ち止まった。 顔を上げた。 気付かれたか? 玄関が開いた、また男若い、さっきの子より少し大きいくらいか?でも…人間だな? 「あなたがヒロム?」 「いや?」 「ここは居酒屋よね」 お客か、どうぞ。 男はビールサーバー用の入れ物を二つ、手にすると中へ入って行く。 女もその後をついていくが、片手を上げた? そして中へ入って行く。 中で何をやっているのだろうか?男は、家にはいろうとしました。 バチン! まるで静電気に触れたように、電気が走りました。 は? もういちど。 バチン! 今度は弾き飛ばされました。 結界? 両手を伸ばしてみました。 バチン、やはりはじかれます。 「待てよ?もしかして、ククク、これはイイや、すぐに知らせようっと」 町は夜更け過ぎに、雪へと変わるだろう、オー、サイレントないと、オーおお、ホリーナイト。と大きな声で歌って消えていきました。 オー。 という声が上がってます。 「立ち止まらないで、進んで、右へ、廊下へ出てください!」 クリスマス休暇は、海外では当たり前なのか、この日多くの魔族が、故郷へと帰ってきたのです。 帰りたくても帰れないのは、ちょっと問題があったからなんだそうだが、桜井さんがきんの話をした人から広がり、俺の家から帰れると聞いた人の問い合わせがすごかった。 それに飛びついたのが、義人だ、テストと重なり、俺がやると、ツアー会社にまで手配して、彼等を招き入れる準備をした。 金が絡むと、どうして頭が回るのか、それを勉強の方に生かしてくれればいいのにな。 そんなんで、城の中はまあにぎやかで、俺たちは握手をされるは、ハグされるはで、コロナで家から出れなかったから、そりゃあ解除になったんだ、喜んで、来るよな。 地球に人類が生まれてから数千年、彼等はこの星で生きてきた。 そして二百年ぶりに、その扉が開いたんだ。 桜井さんはその訳は七人衆に聞けと言われたけど、別に困るわけでもないからな。 なんだか物語のような感じで、それでも奥の人が抱き合って喜んでいるのを見ると、いいことしたんだよなと思えるのはなぜだろう、魔物なのに。 「兄貴、これどこに行けばいい?」 「あーサーバーの所で」 「俺、事務所にいるから、何かあったら内線で知らせてくれ」 「事務所?そんなのどこに?」 「魔王様に借りた、二階、階段上がってすぐの部屋、内線十番ね、ハイハイ、ごめんなさいね、帰りの飛行機やホテルの予約は、早めにお願いしますね、それでは皆さんメリークリスマス」 拍手と指笛がなる中解散したよ。 「あいつ、学校卒業できるんだろうな?」 「出来るんじゃないの?就職さきの社長さん、大口もってきてくれて感謝してたわ」 「は?バス会社?」 バス会社だって、旅行の入り口はあるでしょ? マジか? 「ねえ、あなたがヒロム?」 「は、はい?」 その声に振り向くと、今どきのギャル、ピンクの髪に、ポップなシャツにミニスカート。 フ○ちゃんか? へーと下から見られた。 ギャルは、開いている椅子を引き寄せ座ると、今日は何曜日と聞いてきた。 今日は金曜日だが。 なーんだあ向こうと同じか? と彼女は言った。 「じゃあ今日はビーナスか、呼んでくれる?」 わかりました。 内線で彼女が出ると、忙しいのになんだとあのきゃんきゃんした声で言われた。 若い女性が呼んでいるんだというと誰と言われた。 「あのー、すみません、お名前は?」 「シルフィーネ」 シルフィーネ様です。 は? ですから。 ガッチャンと切られた音に、片目をつむった。 「すぐ来られると思います」 そう、あー、タピオカあるじゃん、お姉さんミルクティーくださーい。 彼女は秋姉の所に行き、タピオカを買って、ストローを口に戻ってくると、バタバタと走る音が近づいてきたと思ったら。 「シルフィーネ様!」 と飛びついた。 きゃぴきゃっぴの二人はただのギャル。 ビーナスさんも同じものを頼んで、座り込んで話し始めました。 叔父うえは? 今、○○さんと話してるー。 飛行機で一緒になった、ねえ、何がどうなってんの?くそ親父に帰って来いって言われてさ、いやいや返ってきたんだよー。 誰だ?とミノル。 知らないよ? でもあの子と話してるのなら王族か?とシンさんです。 すると小鬼が、彼女は、魔王様の父上の弟君のおこさんです。 「いとこじゃねえか」 マジ王家、姫様? そうですねという鬼っ子。 二人は散々話すとやっと席を立った。 「ああ、そうだ、さっきヘンな殺気を感じたんだ、結界はっておいたけどさ」 いずれは見つかる、穴をあけることができるのは三人の王だけだと言いながら出ていった。 「穴ね?」 「穴だよなー?」 「向こうとつながってんだ、穴でいいんじゃねえか?しごとしろよな」 はーい! それから数時間後、電話が鳴った。 「はい、厨房」 今じゃ城中に内線電話をつけた、彼等は神出鬼没だが、俺たちは魔法が使えるわけではないから、特に魔王様からの注文しだいでは、あっちこっちいかなきゃいけないからな。 執務室にクリスマスケーキを持ってこいの一言で切られた。 は? 今何時だ? 十時、コンビニでもこの時間じゃ無いだろ? どうするよ? 「お前んとこの甥っ子たちに買ってきてないのか?」 いやいや、先日だし、明日なら…ん?ああ、そう言えば、ちょっと見てくる。 秋姉ちゃんが風呂から出てきた、今じゃ、慰謝料代わりに分捕ったものを全部うっぱらったと、賃貸のアパートを出て家に戻ってきた。 「なあ、隼人のケーキあ、ああった、もらってもいいかな?」 「なんでよ?」 「魔王様だよ」 「ちゃんと聞きなよ?あの子の唯一の楽しみなんだからさ」 二階? そうだという。 「隼人、起きてるか?」 「何?」 かくかくしかじか。 「いいよ?」 「いいのか?」 「あーそうだ。俺が持って行ってもいいかな?」 「いいけど」 「魔王様が食べるのか、よっしゃー」 「よっしゃーって?」 「まあいいじゃん」 下へ行き、冷蔵庫から出したケーキがテーブルの上にあるのを見ると、業務用の冷蔵庫からも何かを出した。 「おい、お前、これ」 出したのは、かわいい飾りのついたブッシュドノエル。 「へへへ、スゲーだろ、兄ちゃん、俺さ、高校出たら製菓の専門学校行きたい」 「それはいいけど、これ」 「俺だって進化してるんだ、魔王様に認めてもらえればパテシエで雇ってもらえるかもしれねえだろ?」 「バーカ、まだ先だ、早く持っていくぞ」 ああ、俺これでいい?とジャージを引っ張った。 「下にエプロンある」
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