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およそ人間の力ではない霧は、老婆を宿の勝手口へと誘うように動く。
老婆はやれやれとため息をつき、キッチンに繋がる勝手口の扉に手をかける。
音もなく扉を開け、ぬるりと宿の中に入る。
「あれじゃ、治るもんも治らないよ」
老婆は、入るなりウンディーネに苦言を呈したのだ。
老婆が入ってきたことにウンディーネは驚きもせず、ただ肩をすくめて鍋をかき混ぜていた。
「年寄りになっても男好きは変わらないのね。ちょっと噛じられたくらいだから、使い物にならないわけじゃないわよ」
心配しなくても大丈夫よと言うも、ウンディーネは笑うのを隠そうとしなかった。
老婆は鼻を鳴らしながらローブを脱いで、そうじゃないと冷静に首を降る。
ローブを椅子にかけると、まとわりついていた霧がふっと消え老婆の姿が明瞭になった。
「あんな青いのをどうにかしようだなんて、誰が考えるもんか。そっちじゃない。看病をマンドラゴラに任せてるだろ。病人を差し置いてお祭り騒ぎだよ」
老婆の声は見た目よりもハリのある若い声をしていた。
老婆は、大量のハーブをテーブルの上に広げそのままムシャムシャと頬張り始めた。
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