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プロローグ
ライトスタンドの歓声は既に掠れていた。ミニバットの叩く音と手拍子が場を支配する。
白樺ビッグフッツと福井ダイナソーズ。延長11回裏。ワンアウト満塁。ヒットで埋めた塁なら様になったろうが、まさかの3者連続敬遠である。だがいずれにしても2点入れば逆転サヨナラ。これから、リーグ最弱のクリーンアップへと回る。
打席に立つのは、3番山岸。出たサインはスクイズ。
「……決める! 決める!」
2回目の「決める」を心の中で唱えているうちにボールが飛び込んできた。
「あ」
初球が先に当たり、小さく浮いてキャッチャーミットに収まる。ツーアウト。
全ての行く末は、4番・キャプテンの磯崎大二郎に託された。
「あの道化師が」
彼は分かっている。山岸の実戦でのバント経験は皆無に等しく、成功率が低いのは周知の事実だ。わざとやったのだ。全てが自分にこの場を用意するための前戯である。
球場4階のオーナー席で見下ろす男の顔が目に浮かぶ。その男は足を交差させその光景全てを見届ける。『台本』と称した分厚い冊子を脇に置き、頬杖をついて窓を挟んだ遥か先の彼に声をかけた。
「さあ、『メークドラマ』の時間だ」
セットポジションから第1球―。
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