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「ねぇ、聞いてる?ちょっと、てか聞けよ!」
見つかった時に無理やり交換された携帯端末から可愛いが、かますびしい(やかましい)
声が響き、狭すぎるボロアパート兼隠れ家を振動させる。
「ふざけやがって、馬鹿正義の元ヒロイン…これから晩飯だってのに…」
コンビニなどのジャンクフードは、市販の加糖された米である、おにぎりや“砂糖のご飯”等が口当たり、味的にもよく似合う。しかし、そうすると値段が嵩む。冷蔵庫には、
冷やした米が残り、加えて暑い季節には油モノが食べたいと熟慮した結果…
(スーパータイムセール総菜の半額アジフライに簡単に衣をつけて、揚げ直しプラス、野菜くずを混ぜての簡易炒めを準備中だってのに)
端末を操作し、いかにも面倒くさいって感じを強く声に出しつつ、声を上げる。
「ハイ、ハイ、こちら、あー、あー、電波が悪い。あ、ワリい。電波がヒドイ」
「ちょっと!扇風機当てて、誤魔化すな!ここ日本!ほぼ全域で電波入るでしょ!」
全ては見透かされているようだ。ため息をつき、扇風機から離れる。
「で、何です?」
「この間の、例の店なんだけど、調べてみたら、やっぱりビンゴ!それで、少しマズい事になった」
「不味い?いや、まぁ、味は人によっての良し悪しがあっからな。飯テロドラマとか、
テレビで紹介された奴は味合わない事あるから、仕方な…」
「そんな食レポじゃない!馬鹿、とにかく…!?っ…キャーッ!!」
「オイッどうした?そんなに不味かったのか?それとも続く言葉は“うんまーい”的なアレかっ!?オイッー!!」
端末にむけてがなる、元傭兵の“軍曹(ぐんそう)”は、この数秒後に同居している、同じく元悪の組織所属の怪人“ヒトツメ”に
“普通に考えて、ピンチの方のマズいだろっ!”
と突っ込まれ(人間体を解除したヒトツメの一つ目光線がモロに発射される)色々と我に
返った…
そもそものキッカケは現在のアフターヴィランライフだと思う。
異能者や怪物が溢れかえった近未来、それを討伐する人類側の異能者、魔法少女に
変身ヒーロー、ヒロイン等の活躍により、悪は滅びた。
生き残った軍曹やヒトツメを含めた残党達は一般社会に身を潜め、僅かな蓄えで、今後の展望もなしに細々と生きていく。
あれは、逃亡の中で知り合った残党怪人ヒトツメと商店街の安食堂“羅鵜宴(らうえん)”
で遅い昼食をとっていた時だ。
店のオススメである1食580円のから揚げ定食は、大人の握り拳くらいのから揚げが
4個と皿端にケチャップと胡椒がひとさじ載せていて、これに味噌汁と水木し〇るの漫画に出てくるようなタワー大盛白飯がつく。
鶏肉は“これ、何の肉?”を使ったって言う位、肉質が粗く、衣も固くて、初めて食べると、
口の中が切れそうになる。
だが、咀嚼し、胃の中に納まった時の爽快感、シンプルな味付けゆえに“肉を喰った”と言うような、確かな実感と肉自体を噛み砕く内に口腔を支配する“ケン〇ッキーのチキンに、似てない?”的な疑似風味が癖になり、軍曹達はたびたび利用していた。
その日も、お気に入りのから揚げ定食の新しい食べ方、ケチャップと胡椒の塗りつけ割合を
控え目にせず、増し増しにすると言う試みを行っていた時…
2人が陣取るテーブル横の空き椅子に形の良いハイニー尽きの足が“ドン”と乗せられた。
「そこのお二人、姿形は偽装しても、私には一目瞭然!!元、悪の特殊部隊同人所属の軍曹と、元悪の組織ゾットの怪人ヒトツメね!とうとう見つけたわよ」
気の強そうな、おキキリ目元に、近所の学校制服…うかつだった…
変身してないから、わからんが、コイツは何処かの所属の魔法少女…戦いすぎて覚えはないが、以前に交戦した誰かだろう。
現に、素早く動いたヒトツメが、彼女の指から飛び出す、小さな光線に打たれて、テーブルのから揚げに顔面を埋めている。
そして“アカネ”と名乗る少女の小さく華奢な唇から発せられた言葉は、その可愛さに似合わず、正に驚愕すべきモノであった。
「み、見逃し料?」
「そ、見逃し料!私等、アンタ等の組織壊滅させて、一応平和になったし、引退よ。だから
今は学業専門、友達と遊んだり、恋したり、今まで正義によって損なわれてきた青春を取り戻している真っ最中…
でもね。かかるのよ、コレがッ(非常にいやらしい指使いで作る金のマーク)
わかるでしょ?いわば、アンタ等に対する慰謝料?迷惑料的なアレよ。そうだな。とりあえず、1人3万ね?2人で6万…即金で払う!今すぐNOW!」
“ふざけるなよ!”
と怒鳴る前に、軍曹の顔面にローファーがスッポリと収まる。
「口ごたえ無し、さっさと出す」
「‥‥…」
「おっお客さん!困りマス」
魔法の力で、軍曹と突っ伏すヒトツメの懐から財布を宙に浮かせ、5万円(それしかなかった)を引っ張り出すアカネに、オロオロした感じでコック帽がとってもお似合い女店主が(初めて姿を確認する。言われてみれば、料理はいつの間にか、テーブルに出ていた)
厨房から走ってくる。そんな、アワアワ系店主をジーっとネトつく視線で確認したアカネの口元が三日月形に、これまたイヤーな感じに広がり、アワアワからオロオロに変わった店主の首筋に顔を近づけ“スンスン”と言う擬音と共に何かを嗅ぎ取る。
「な、何でスカ?」
「う~ん、あ~、成程ねぇ~っ、ちょっと奥行こっか?てか、行くよ!ホラッ」
「ひゃ、ひゃうっ」
乱暴に腰を掴んだアカネが店主を厨房に連行していく。よくわからないけど、矛先が変わった事に安堵しつつ、最早、只のチンピラと化した、元魔法少女を止めなくていいのか?と
言う、心に走った一抹の思考は、元がつく、魔法少女が振り向きざまに、放ったツバが目の前の皿に不時着した事により、停止された。
「残りの1万、利子付きでプラス1万の計2万、今週中に回収すっからね?この店で、ヨロシク~」
あんぐりと口を開け、停止状態を継続する軍曹の前で、復活したヒトツメが、怪人状態の
まま、目の前の皿を、巨大な特有の一つ目で見つめ始める。
「‥‥オイッ?ヒトツメどした?」
「軍曹、考えてみてくれ。金を盗られて、俺達は今日も、明日の飯も怪しい。だから」
「いや、お前気絶してたから、知らないかもだけど、それ、ついてるから!」
「気にしねぇ!」
「あれ?ヒトツメ?もしかして、あれ?変態さん?駄目だよ。落ち着いて、人の尊厳が」
「怪・人・だ・か・ら、怪しい人だから!人・じゃ・な・い」
「やめろよぉお!」
この後、から揚げを口元寸前まで送ろうとするヒトツメをどうにか引き止め、店を後にした軍曹は飢えと金策に20数時間程苦しんだ…
「きっかり2万!確かに頂きました」
羅鵜宴のテーブル席で、楽しそうに札を仕舞うアカネは、微笑みあどけないけど、やってる事は恐喝だ。
「俺等以外からも、こうやって毟り取ってるのか?」
「フフッ、どうかな?まぁ、その辺はご内密に…アンタ等がまた纏まって、ひと暴れされても困るからね」
“最も、自分達には、何やっても敵わないけどね”
と言う言葉は言わなくてもわかると言うように、意味ありげな微笑みを絶やさないアカネ…
昨日別れて数分も経たない内に、いつの間にか連絡先を知られ、呼び出された。
ただでさえ少ない蓄えから慌てて金を用意した。
「まぁ、ご飯でも食べようよ」
明るく喋る彼女に合わせるように、女店主が食事を持ってくる。
「あの、から揚げ定食2つとサービスのチャーハンお待ちどうデス」
「ありがとうねぇ~?店長さん!」
意味ありげに店主の手に、手を置くアカネ。その仕草で彼女が自分達と似た立場だと言う事を察した。ヒトツメに顔をむけるが、首を振る所を見れば、面識はないのだろう。
因みに、この店のチャーハンは、卵を入れる工程が通常のチャーハンの工程とは違う事が
隠し味なのか、パリッとしつつ、独特のとろみを持った米が歯ざわりが良く美味しい。
味の素だって使ってるかもしれないが、そんなモンは何処にだって入ってる。上手く、安い事に意味がある。
そんな、ご機嫌なチャーハンを美味しそうに口を運ぶアカネを羨まし気に見つめるヒトツメと軍曹の視線に気づく。
「なに?」
「いや、そのチャーハン美味しそうだなと思って…」
「ふむ、ふむん。まぁ、美味しいね。ただ、ん~ん?何だかどっかで…」
「あの子も俺達と?」
「さぁ…どうだろうね?てか、売れてるでしょ?ここの店」
「ああ、何か、安い食材を美味しくする工夫があるって…」
会話から察するに、一口もくれない事はわかった。それどころか…
「から揚げ美味しそうだね」
しばしの沈黙の後、軍曹とヒトツメの皿から1つずつ徴収した彼女は、終始ご機嫌だった。しかし、何度も首を傾げる仕草が少し気にはなったが、アカネは次の見逃し料金徴収の話をされ、すぐに頭から吹き飛んだ…
そして、現在の途切れた電話である。
「軍曹っ!どうする?」
「いいよ。アジフライ食べようぜ?ちょっと痛い目に遭えばいい」
「例の店って、羅鵜宴だろ?こないだ飯食った時、何か可笑しいって顔してたもんな。あの子…」
「お前も気づいてたんだな。大丈夫だって。問題ねぇから」
そう言いながら、レンジに入れた白飯を卓に並べる。
「別にあの子が傷つく事を心配してる訳じゃない。ただ、あんな感じの
アフターヴィジランテは腐る程いる。彼女がいなくなったとしても、もっとヒドイ、
たかり野郎が出てくる事だってある。それなら、助けて恩を売る方が今後を含めて得策だろ?」
既に人間形態を解いたヒトツメが立ち上がった。軍曹の足らない頭が素早く計算と打算を無駄に繰り返す。結果は言うまでもない。全く、悪の残党、正義のヒーロー含め、楽なアフターライフは望めない事はお決まりのようだ。
「……………確かに!よし、行くか。食事にはラップをかけておく」…
「本日閉店」の看板を掲げた店は明かりを落としている。だが、どことなく不気味な
雰囲気は伝わってくる。彼等が戦っていた時と同じ独特の気配がビシビシと肌を突き刺す。
「うわっ、何だこれ…」
「香水?いや違うな。これはもっと…別の」
裏口の鍵をこじ開け、店内にゆっくりと侵入した2人は、噎せ返るような甘い芳香に出迎えられた。
よく見ると、床やテーブルにぬめりがあり、カウンターには先日、アカネが食べていたチャーハンが置かれている。
「チャーハンは1人前…アカネが頼んだのか?そして、美味いなコレ」
夕飯前も踏まえ(本当に踏まえてるか?)手早く、食いかけのチャーハンをヒトツメが口に詰め始める。だが、問題なのはそこではなく…
「オイッ、ヒトツメ!」
「うん?」
「そのチャーハンと、この匂い…多分、周りのベタベタ、同じだ。同じ!」
「同じ…じゃぁ、このチャーハンの美味い理由は…」
そう言いながら、食事を止めないヒトツメの貪欲な咀嚼音に負けないくらいの大きな音が厨房から響く。
無言で示し合わすと、ヒトツメはチャーハンを抱え、軍曹は近くのモップを手に取る。
ゆっくりと進む2人の足元が何かに当たった。確認したヒトツメが驚きの声を上げる。
「こ、これは、アカネ…さん?(さんをつける所に若干の遠慮と言うか、恐れのようなモノがある)」
床にあったベタベタに、全身を包まれたアカネが厨房床に転がり、そして、それに覆い被さるように立つ、赤く目を光らせた女店主が、口から大量の涎?液体を出しながら、アカネの全身をコーティングしていく光景に遭遇した。
「お、お二人!どうしテ…」
「うん、いや、とりあえず、口を閉じて…えっ?これ…もしかして…えっ?」
「そうか、組織に所属していた時に聞いた事がある。怪人自身の体から出る成分で、人間を
操ったり、惑わす能力を持つ者の話を。店長はその…」
「ハイ…そうです。ヒトツメさんとは違う勢力に属していましたけど、前の戦いで組織は壊滅、生活のために、お店始めマシタ」
女の子が女の子を口から出した何かでべとべとにしていると言う、若干ホラーな状況に遭遇しているにも関わらず、冷静なやり取りをしている2人の異能者。
まぁ、考えてみれば、自身も含め、全員が普通の人間ではないか。しかし、重要になってくるのは、そこではなく…
「えっ、これは、その、アレかな…?隠し味は店長のよだ…特性ソース?これはメニュー全部に入ってるの?」
「イイエ、とりあえず、試作メニューとして、チャーハンとあんかけチャーハン、ラーメン、
麻婆豆腐のみに…」
「あ、良かった。今後、絶対そのメニューは頼まないと思います!ハイ!」
「俺は全然イケるぜ!軍曹」
「うるさい、黙れ、怪人!いや、只の変態…しかし、どうしてアカネ…さんは気づいたのかな?」
「エーット…」
「口の中と同じ味がしたからよ」
「ヒィイッ、生きてた」
赤くモジモジとする女店主に同調するように、ガバーッと粘液から全身を起こすアカネに後ずさる軍曹達だが…
「ん?口?えっ?」
「まとまった金が無いからって言うから」
「それは、つまりマウストゥマウ」
「オッケー、ヒトツメオッケー!もう言うな。そして、アカネさん、真実を明らかにしたい
気持ちもわかるが、これ以上べたつきたくなかったら、余計な詮索は無しだ。
この娘の店は売れてる。アンタの見逃し料も充分潤う。それでいいだろ?」
数秒考えこんだアカネが頷く。損得勘定は早い。
「いいんですか?」
不安そうに喋る店主に頷く軍曹…正義も悪も、ある意味では同じ残党の身、まだまだ手探りのアフターライフを色々と模索するのも悪くない。
「まぁ、美味けりゃ、いいんじゃない?因みに俺は…」
楽観的な変態怪人の言葉を無視し、店を後にしようとする軍曹…
その動きが、何かをしきりに考え込む、とゆうか、明らかに外への移動を妨害している
アカネに止められる。
「どうした?」
「いや、考えたんだけどさ。店長の口から分泌されるモノで味が出るって事は、元魔法少女のアタシのもイケるのかなぁって。ビックビジネスの予感がさぁっ!」
「いや、あれは店長の特殊能力だから…」
「よし、そうと決まれば善は急げ!(聞いてない)店長、厨房GO!大丈夫、試食は2人もいるから」
「えっ?2人?それ、俺も入ってんのっ!?」
「わっかりマシター、お任せあれー」
元気に厨房へ消えていく、2人の元、正義と悪…とても良い共生のアフターライフの実現を目にしているようだが、何を食べさせられるかがわかっている自分としては、地獄でしかない。
隣に並んだヒトツメが軍曹の肩を叩き、親指を上げる。
「俺は全然イケるぜ!軍曹」…(終)
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