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「わーい! 荒木先輩、待ってましたよぅ!」
営業課のドアをくぐったと同時、窓寄りの席に座った五代 懇乃介からにこやかに手を振られて、羽理は心の中であからさまに溜め息を吐いた。
羽理より二つ年下のワンコ系営業マンの懇乃介は、仕事中だと言うのにまるでアフターファイブのようにネクタイを緩めて、おまけに胸元のボタンまでひとつ外している。
元々癖っ毛なのか、ゆるふわな髪の毛をクラウドマッシュに仕上げた懇乃介は、営業職としてはちょっと明る過ぎない?という印象のキャラメルブラウンの髪色だ。
(入社してきたばかりの頃はもう少し黒っぽい毛色だったのに)
羽理の勤める土恵商事では、新入社員は一ヶ月単位でいくつかの部署をランダムで回って研修をするシステムが採用されている。
その中で各課の上司や先輩たちから上がってきた評価シートで、最終的にどこの配属になるかが決まるのだけれど。
たまたま懇乃介が財務経理課へ研修に来た際、羽理が教育係として面倒を見たのをきっかけに、何故か未だにやたらと懐かれているのだ。
『俺は先輩の下で働きたかったのにぃー』
もちろん配属先は本人の希望もある程度は考慮されるのだけれど。
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