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懇乃介は配属先希望調書の第一希望にも第二希望にも第三希望にも、バカのひとつ覚えみたいに『財務経理課』と書いたらしい。
だが肝心の志望動機欄に『荒木先輩がいるから!』という何とも困ったちゃんな回答をしたため、『五代くんはそう言う押しの強さを買われる形で営業課へ配属になったんですよ。あと、思い入れが強すぎて……荒木さんのストーカーになられても困りますしね。少し距離をあけてもらいました』と倍相課長から苦笑まじりに聞かされたのを覚えている羽理だ。
(いくら何でもストーカーにはならないと思うけどな?)
真っすぐ思いを伝えてくる懇乃介は、可愛い弟だな?と思うことはあっても、そういう陰湿な面はないように思えた羽理だ。
まぁ、理由はどうあれ営業へ配属してみると、懇乃介の人懐っこさは外部の人たちからも可愛く見えるみたいで、営業成績は割と上々らしい。
よく言えば取っ付きやすい。悪く言えばチャラチャラしたその見てくれと内面を持つ懇乃介が、少し垂れ気味の目を細めて自分へ向かって嬉し気に手を振る姿に、羽理は吐息を落とさずにはいられなかった。
このところ、毎度毎度領収証の中に明らかに個人的なモノを入れてくる懇乃介が、大好きな飼い主を見つけたワンコみたいにこちらへ駆け寄ってくるのを見ながら、羽理は(今回も絶対わざとだ)と確信する。
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