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「俺、月に一回は荒木先輩の顔見ないと息が詰まるんっすよ」
「はいはい、そうですか」
調子の良いことを訴えてくる後輩を適当にあしらいながら、仕事とは絶対に関係ないであろうレシートを懇乃介の眼前でヒラヒラさせて――。
「研修の時にも教えたでしょう? こういうことされると『違う』って分かってても私、一応確認しなきゃ気が済まなくなるの! お願いだから無駄な時間を使わせないで?」
羽理が溜め息混じりにガツン!と言い放ったと同時。
「えへへー。けど実は無駄な時間じゃないんっすよ。――はい、これ」
悪びれた様子もなくスッと目の前に手を突き出された羽理は、困惑を隠せない。
「ほら、ぼぉーっとしてないで手ぇ、出してください。溶けちゃうじゃないっすか」
言われるまま差し出した手のひらの上に、見慣れない包装紙に包まれたチョロルチョコが二つ落とされた。
「先輩、前にブルーチーズ好きだって言ってましたよね? チョロルのブルーチーズ味、期間限定品らしいんで見つけた時、先輩に差し入れようと思って買っておいたんっす。二個あるんで、法忍先輩と一緒にどうぞ」
「え?」
「これ渡したくてわざとそん時のレシート、紛れ込ませてました。すんません」
口では謝りながらも、平然とした様子でニコッと微笑まれて、羽理は「はぁー」と吐息を落とさずにはいられない。
「五代くん、こういうのは……」
「いや! 皆まで言われなくても分かります! お、俺だって! ホントは領収持って行きがてら、経理課へ差し入れに行きたかったんっすよ。けど――」
倍相課長に『営業は忙しい部署でしょう? わざわざ個々に領収を持って来ないで、ある程度取りまとめてから雨衣課長経由で回して下さい』と釘を刺されたのだと言う。
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