9.ワンコパニック

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「俺、月に一回は荒木先輩の顔見ないと息が詰まるんっすよ」 「はいはい、そうですか」  調子の良いことを訴えてくる後輩を適当にあしらいながら、仕事とは絶対に関係ないであろうレシートを懇乃介(こんのすけ)の眼前でヒラヒラさせて――。 「研修の時にも教えたでしょう? こういうことされると『違う』って分かってても私、一応確認しなきゃ気が済まなくなるの! お願いだから無駄な時間を使わせないで?」  羽理(うり)が溜め息混じりにガツン!と言い放ったと同時。 「えへへー。けど実は無駄な時間じゃないんっすよ。――はい、これ」  悪びれた様子もなくスッと目の前に手を突き出された羽理は、困惑を隠せない。 「ほら、ぼぉーっとしてないで手ぇ、出してください。溶けちゃうじゃないっすか」  言われるまま差し出した手のひらの上に、見慣れない包装紙に包まれたチョロルチョコが二つ落とされた。 「先輩、前にブルーチーズ好きだって言ってましたよね? チョロルのブルーチーズ味、期間限定品らしいんで見つけた時、先輩に差し入れようと思って買っておいたんっす。二個あるんで、法忍(ほうにん)先輩と一緒にどうぞ」 「え?」 「これ渡したくてわざとそん時のレシート、紛れ込ませてました。すんません」  口では謝りながらも、平然とした様子でニコッと微笑まれて、羽理は「はぁー」と吐息を落とさずにはいられない。 「五代(ごだい)くん、こういうのは……」 「いや! 皆まで言われなくても分かります! お、俺だって! ホントは領収持って行きがてら、経理課(そっち)へ差し入れに行きたかったんっすよ。けど――」  倍相(ばいしょう)課長に『営業は忙しい部署でしょう? わざわざ個々に領収を持って来ないで、ある程度取りまとめてから雨衣(あまい)課長経由で回して下さい』と釘を刺されたのだと言う。
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