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ジリリリリリー!と言う、まるで目覚まし時計のようなこの音は、土恵商事では昼休憩ですよ、の合図だ。
「ねぇ羽理! 倍相課長が今日のお昼一緒にどう?って誘ってくれたんだけど……もちろん行くよね?」
ベルが鳴ると同時、羽理はパーン!とエンターキーを叩いてデータを保存したと思しき法忍仁子から、そう声を掛けられた。
会社ではキリリと澄ました、〝出来るオフィスレディ〟を気取っている羽理だけれど、家では基本ぐぅたら。
女子力なんてどこかに置き忘れて久しいので、入社して以来手作り弁当なんて作ってきたことがない。
ランチは大抵コンビニ弁当か、会社に出入りしている仕出し屋の弁当か、はたまた近場の飲食店へ仁子と一緒に食べに行ったりしている。
長い付き合いでそれを知っている仁子が、いつもの調子で「せっかくだし一緒に食べに行こうよ」と誘ってくれたのだけれど。
「ごめん、仁子! 実は私、今日はお弁当持ってきてて……」
「嘘でしょ!」
「嘘じゃないよぅ」
「もぉ! どこで買ったヤツよ? 消費期限、夜までとかじゃないの!? 確認してみなさいよ!」
買ってきた品だと決めつけている仁子の様子に、羽理は何となく意地になってしまう。
「残念ながら出来合い品じゃないから! そう言うの、分かんないし多分そんなには持たないと思う!」
言って、どこか得意げに若松菱模様の風呂敷に包まれた弁当を鞄から取り出したのだけれど。
「やけに渋い包みね!?」
朝、羽理自身が華麗にスルーした部分を、仁子が的確に拾い上げてきたから。
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