9.ワンコパニック

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 と、そこでとした春風みたいな雰囲気を身に(まと)った倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)がひらりと二人に近付いてきて。 「あれぇ? ひょっとして荒木(あらき)さん、今日は手作り弁当? ランチをおごろうと思ってたのに残念(ざんねーん)」  瞳を目一杯見開いた倍相(ばいしょう)の様子から、言外に『珍し過ぎない!?』と付け加えられているのを感じた大葉(たいよう)は、(ま、それ。そいつが作ったんじゃねぇしな。荒木を昼に誘えなくて遺憾だったな、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)!)なんて思いつつ。  何となく倍相(ばいしょう)課長に一歩リードした気がして心の中、(今朝の俺、グッジョブ!)と胸を張りたくなった。 「すみません、課長。また誘ってください」  羽理(うり)からのに、倍相(ばいしょう)が「もちろん」と答えるのを聞きながらつい対抗心。 「いや、荒木(あらき)はこれからもずっと手作り弁当持参するから無理だろ」  なんてつぶやいてしまって。 「えっ!?」  三人から一斉に注目を浴びてしまった。 「何で屋久蓑(やくみの)部長がそんなこと言うんですか!」  羽理にプンスカされた大葉(たいよう)は、思わず苦しまぎれ。 「せ、せっかく弁当箱とか用意したのに作らないとかもったいないだろ!……って思った、だけ……だ。ふ、深い意味は……ない」  と、机上にポツンと置かれたモスグリーンの包みを指さして、しどろもどろ。どうにかこうにかそう思った理由を述べたのだけれど。 「えー。羽理、わざわざお弁当箱、買ったの?」  法忍(ほうにん)がそこへ食いついてくれてホッとする。 「か、買ったわけじゃ……」
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