9.ワンコパニック

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 自分が作ったわけでも弁当箱を用意したわけでもない羽理(うり)がオロオロするのを見て、(それは忘年会のビンゴ大会の景品だぞ、荒木(あらき))とふふん、としたと同時、『あ!』と思った大葉(たいよう)だ。  そう、あれは行事ごとで手に入れた品だ。  鈍そうな女子社員二人はともかくとして、一見のほほんとして見えるがその実やり手な倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)は勘付くかも知れない。  それに――。 「もぉ、煮え切らないわね! どんなお弁当箱なのか見せてみなさいよ!」  法忍(ほうにん)が羽理を()かして皆の前で包みを(ほど)かせてしまったからたまらない。 (マズイ……)  包みの下から姿を現したのは白木の曲げわっぱで。 「えっ!? 何で!?」  仲の良い同僚のことを知悉(ちしつ)している法忍(ほうにん)が、それを見て驚いたのも無理はない。 「ちょっと羽理! あんた、いつからしたの!」  白木のふた部分。  大葉(たいよう)が、風呂敷と箸が可愛くない分、少しでも女子っぽく見えるように……と思って貼った、ミニチュアダックスの愛らしい防水ステッカーが鎮座ましましていたからだ。 (ウリちゃんイメージのステッカーだぞ? 可愛いだろう!)  と言うのはもちろん建前。  ニブチンの羽理に、食べる直前。少しでもいいから自分が作った弁当なのだと意識して欲しかっただけ。  そう。  言うなれば、大葉(たいよう)が己の存在感を主張してみただけのステッカーに他ならなかった。
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