10.夕方は予定をあけておくように!

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*** 「はぁ~。どのおかずもめっちゃ美味しかったですっ! 料理のことだけで判断したらダメかもしれないですけど……屋久蓑(やくみの)部長とパートナーになれる人はホント幸せだと思います!」  綺麗に平らげて、米粒ひとつ残さず空っぽにした弁当箱を元のように若松菱(わかまつびし)模様の小風呂敷で包むと、それをひざに載せて羽理(うり)がほぅっと至福の溜め息を()いた。  結局ここに至るまで、羽理に聞きたいことを何一つ聞けていない大葉(たいよう)だ。  食事を摂りながら話したことと言えば、「この煮物、朝から煮込んだわけじゃないですよね?」と言う質問に「ああ」と答えたり、サバの塩焼きをつつきながら問われた「朝からお魚焼いたんですか?」の言葉に「ああ」と言ったとか……そんなのばかり。 (考えてみたら俺、『ああ』しか言ってないじゃないか!)  今更のようにそれに気が付いた大葉(たいよう)だったのだけれど。 「――なぁ荒木(あらき)。俺が作る飯がそんなに気に入ったのか?」  ポツンとそうつぶやいたら、即行で「はい!」と返って来た。 「じゃあ、さ……。毎日俺の料理が食えるポジションに来てみるとか……どうだ?」  大葉(たいよう)としては結構思い切った告白の言葉を口にしたつもりだ。  だって……それこそよくプロポーズで引き合いに出される「毎日キミの作った味噌汁が食べたいんだ」に匹敵するくらいのセリフだったから。 「えっ?」  だからそのセリフに羽理が珍しく言葉に詰まったみたいにこちらをじっと見つめてきたのも当然に思えて、大葉(たいよう)はごくりと生唾を飲み込んだ。  なのに――。 「あの、部長……それって……もしかしてですか?」  と返されるとか、さすがに『嘘だろ!?』と思わずにはいられない。
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