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「はぁ~。どのおかずもめっちゃ美味しかったですっ! 料理のことだけで判断したらダメかもしれないですけど……屋久蓑部長とパートナーになれる人はホント幸せだと思います!」
綺麗に平らげて、米粒ひとつ残さず空っぽにした弁当箱を元のように若松菱模様の小風呂敷で包むと、それをひざに載せて羽理がほぅっと至福の溜め息を吐いた。
結局ここに至るまで、羽理に聞きたいことを何一つ聞けていない大葉だ。
食事を摂りながら話したことと言えば、「この煮物、朝から煮込んだわけじゃないですよね?」と言う質問に「ああ」と答えたり、サバの塩焼きをつつきながら問われた「朝からお魚焼いたんですか?」の言葉に「ああ」と言ったとか……そんなのばかり。
(考えてみたら俺、『ああ』しか言ってないじゃないか!)
今更のようにそれに気が付いた大葉だったのだけれど。
「――なぁ荒木。俺が作る飯がそんなに気に入ったのか?」
ポツンとそうつぶやいたら、即行で「はい!」と返って来た。
「じゃあ、さ……。毎日俺の料理が食えるポジションに来てみるとか……どうだ?」
大葉としては結構思い切った告白の言葉を口にしたつもりだ。
だって……それこそよくプロポーズで引き合いに出される「毎日キミの作った味噌汁が食べたいんだ」に匹敵するくらいのセリフだったから。
「えっ?」
だからそのセリフに羽理が珍しく言葉に詰まったみたいにこちらをじっと見つめてきたのも当然に思えて、大葉はごくりと生唾を飲み込んだ。
なのに――。
「あの、部長……それって……もしかして異動の内示ですか?」
と返されるとか、さすがに『嘘だろ!?』と思わずにはいられない。
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