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「きょ、今日の仕事後、一緒に買い物へ行かないか?」
と、何ともしまらないお誘いをしてしまった。
「えっ?」
「だっ、だからっ。その、ほらっ! け、化粧品とかっ。うちに置いとくやつ、いるだろ? だから……い、一緒にドラッグストアへ行こう! な⁉︎ そんなわけだから……ゆ、夕方は予定をあけておくように! いいな? ――お、俺からの伝達事項は以上だ!」
一気にまくし立てた挙句、まるで上司からの業務命令のように締めくくったら、羽理が条件反射のように「か、かしこまりました」と答えてくれて。
そのことにホッと胸を撫で下ろした大葉はそっと羽理から手を放すと、ベンチ下に転がったままの若松菱模様の小風呂敷と、ベンチの上に置き去りになっていたコンビニのビニール袋入りの自分の弁当箱を手に取った。
「あ、あの、部長……」
そんな大葉に羽理が背後から消え入りそうな声を投げ掛けてくるから。
「だ、ダメだぞ!」
(今更やめましたとかなしだからな!?)
心の中でそう付け加えつつ牽制したら、「でもっ、それ……ちゃんと洗って返しなさいって……さっき仁子が」と、小さい方の弁当箱を指さしてくる。
「あ、ああ……」
そのことにホッとして羽理に風呂敷包みを差し出した途端、お互いの指先がちょっぴり触れてしまって。
「きゃっ!」
「わっ!」
そんな風に思わず二人して過剰反応してしまったことが可笑しくなって、顔を見合わせて笑い合う。
ひとしきり笑った後で、息を整えるみたいに深呼吸をした大葉が、何の気なしに見上げた空はいつになく清々しい青空で。
空気も心なしか甘く感じられた――。
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